何も語らない女に掛ける言葉もなく、かといって静かなのもつらく、カーラジオをつける。女のパーソナリティーと芸人の軽妙なトークを、ぼくは食い入るように聴いた。ふと彼女が、シートの後ろを振り返り、バンの荷台を覗き込んだ。

「わあ、さすが酒屋の車だねえ、ジュースがいっぱいあるゥ」

いつもの朗らかな口調で歓声を上げる。「あ、お酒もあるじゃーん。飲みたくなっちゃう」

無理に場を明るくしようという配慮を感じたから、ぼくもそれに乗っかることにする。

「飲んじゃってもいいよ、厄落としってことで」

「本当? やった」

「利根川の河川敷にでも行く? あそこならおおっぴらに荷台で飲めるよ」

「行こう、行こう。厄落とし宴会やっちゃおう!」

なんだか楽しくなってきたぞ。ゴールデンウィークはこうでなくっちゃあ、などと盛り上がっていたら、スマホが鳴った。着信を見ると品川さんだ。やばい、怒られる。電話に出ると案の定、「お前どこ行ってんだよォ。とっくに配達終わってるはずだぞ。早く帰ってこい」

これでゴールデンウィークの楽しいピクニック計画は、潰えたかと思われた。しかし彼女の宴会魂は、こんなことくらいでへこたれることはなかったのである。

「仕事終わったらさ、お酒持ってわたしの病室おいでよ。宴会やろう。一人部屋だからさ、バレやしないよ」

こんな素敵な誘いを断る理由はない。病室の番号を教えてもらい、ぼくらは夜会の約束をした。

【前回の記事を読む】【小説】結婚をほのめかす彼女に対し…「のほほんでいたい。ケ、セラセラ。」