上からの物言いだったが、所轄への配慮を感じられたこともあり、現場の警察官達はより背筋を伸ばした。
「まずは被害状況の把握、事態の収束。私が出動させられたということは、事件である可能性も上層部は視野に入れているんだろう。正式に事件と確定し捜査本部が立ち上がるまで、現時点より私が捜査指揮を執ることになった。まずは現場の状況を教えろ」
これが、現場のやる気を引き出す貝崎なりのテクニックらしい。貝崎は周囲を見渡すと捜査員の持っていた双眼鏡を取り上げた。
「地上から双眼鏡を使えば、ゴンドラ内に人がいるのは何とか目視できます」
警察官がそう報告する。
「そのようだな。だが、顔までとなるとかなり曖昧だ。身元確認は別途しなきゃならん」
「ええ、そうですよね」
金森が貝崎におもねるように同意した。
「だが下部分に止まっているゴンドラは地上から近いな、おそらく梯子車での救出も可能だ。念の為にヘリの準備も必要だと本庁に伝えておけ。いつでも飛ばせる体制を整えておくんだ」
「わかりました。ところで貝崎さん、捜査一課がなぜ? これって事故じゃないんですかね」
「金森、お前は俺に質問できる立場か?」
「……大変失礼しました」
そう言って金森は二歩ほど下がった。代わりに、城南警察署の警察官が一歩前に出てくる。
「ご指示をお願いします」
「では、すぐに拠点を作れ」
「外ですか?」
「とりあえずはそうだな。来場客が邪魔にならない場所にテントを張って、あとは屋外用の電源と捜査用PCを準備。なるべくあの観覧車の近くがいい」
「それが……ドリームランド側は、ゴンドラ落下による火災と、続けての落下を警戒して、なるべくドリームアイには近づかないで欲しいと」
「ハァ? それじゃ、梯子車やヘリによる救出ができんだろうが!」
「はい。しかし、二次災害を起こしたら非難されるのは警察ですし……」
城南警察署の警察官の言葉に、貝崎は厳しい表情で頷き、とにかく拠点を作れと指示を出した。二十分程度経過した後、ドリームアイが見える場所で貝崎への報告が始まる。
「それではまずこの観覧車事故の概要を説明します。ここドリームランドにおいて、午前十一時五十五分、『愛の台地』内の展望型巨大観覧車『ドリームアイ』が予期せぬ停止。正午過ぎに、ゴンドラの一つが地上へ落下しました。落下後のゴンドラはかなり先まで転がったので、ドリームアイに近づかなくても消火、検分が可能でした」
「被害者は?」
「死亡しています。ドリームアイの担当者によると、その落下したゴンドラはシルバーゴンドラと呼ばれる特別なゴンドラとのことです」
「今世間で話題を席巻してる『ドリームアイ』で落下事故とは社会的影響も甚大だ。しかもこのクリスマスイヴにか」
「ちょっと不自然ですよね」