(これ、うちだよな。目が据わった男。これは俺じゃない。誰だ? こいつ?)
(俺? いやいや、俺はこの光景を全く覚えていない)
(この映像は作り物? いや、これ、やっぱり俺?)
この映像を見た俺は、半パニック状態になった。
「黒木先生、夫は、このときのことを覚えていません。まるで二重人格のようなんです」
妻は、ノートを見ながら、さらに話し始めた。
「この症状が出るときにどんな行動をしていたのかノートにまとめたんです。お酒を飲んだときと睡眠不足のときは酷いことがわかりました。そんなことってありますか?」
「高次脳機能障害の症状は、家にいるときに出ることが多いので、医者が診察で気がつくのは難しいんです」
「そうですよね。頭を使いすぎて頭が疲れている夜が多いので……。家で誰かが気がつくしかないと思います。ただ、夫はまるで別人のようになるので、私は同じ人だと思うと、到底生活ができそうにないので、マイケルって呼ぶことにしています」
「そうですか……よくここまで、気がつきましたね」
「私は、夫とは結婚しましたが、マイケルと結婚したわけじゃないので、マイケルには出て行ってほしいと思っています。だんだんと酷くなっていって、マイケルが出てくる時間が長くなってきているんです。どうしたらいいんですか?」
妻は、黒木先生に詰め寄っていた。
俺の記憶がない時間が増えているということは、家族との時間をマイケルが過ごしていることになる。マイケルの気持ちもわからなければ、マイケルが何をしたかも知らない。
警察が家に来たことは、あとから妻に強く言われたので、断片的だけど記憶にあるようなないような。マイケルがしたことに憤りを感じただけでなく、ぶっ飛ばしたくなった。
「家族を殺す気? あなたが正気に戻ったときに全員いなかったらどうするの?」
妻は、俺にマイケルがしたことの責任がとれるのかとよく聞いてきた。
マイケルが出現したときの最悪なシナリオの話を黒木先生にもしていた。
俺自身、知らない間にマイケルがそんなことをしていたことを知り、とにかく怖く、そして悲しくなった。そして、アンプティサッカーも休みがちになっていった。
このまま自分はどうなっていくんだろう。ただただ将来が不安だった。家族の元を離れしばらく実家に帰ることにした。
思い出そうにも、大脳を損傷していたことで、記憶する機能が欠如していた俺は、思い出せなかった。
妻が訴えるもう一人の俺・マイケルの怖さは、紛れもない事実として俺の心に刺さった。出て行くしかない。