隣国(中心都市)
結論から言うとするなら、そこはもう国などではなかった。
動植物が生きていけるとは思えないほど気温が下がっており、国中のいたるところが凍結されていた。
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
口から白い息を出しつつも、シンとユウはどんどん前へと歩き、突き進んでゆく。
自身の魔力で肉体を覆う技術を会得していた2人は、この極限状態の中でも、普段と変わらず動くことができていた。
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
ほどなくして彼らの足音が止まる。
ことの発端が・・・・・・倒すべき敵が・・・・・・自分達の瞳の中に入ってきたからだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
目線の先にいる「そいつ」は・・・・・・・・・・・・・・
「鱗の生えた氷の甲冑」
・・・・・・・・・そんな表現がしっくり来るような姿形をしていた。
「いけるか?」
「とっくに準備はできてるよ。」
あいつだ! こいつだ! 倒せ! 戦え!
全身の細胞という細胞がそう叫び、2人は臨戦態勢へと瞬時に入る。
そして、攻撃を仕掛けようとしたその時・・・・・・・・・。
「まだ生きている人間がいたんですね。」
「そいつ」は、流暢に言葉を話し始めた。
「「・・・・・ッ!?」」
シンとユウは驚愕する。
あらゆる強大な魔物と対峙し、それらを打ち倒してきた2人だったが、目の前にいる「そいつ」のような人の言葉を発する魔物とは、いまだかつて遭遇したことがなかったからである。
「「・・・・・・・・・」」
しかし。
幾度も修羅場をくぐり抜け、生存本能を磨いてきたシンとユウは、頭に浮かんだ余計な思考を後回しにし、再び意識を集中することに成功した。
「この国の生物はすべて氷漬けにしたと思っていたのですが・・・・・・・・・・・・ふむ?」
2人を観察する素振りを見せた後、「そいつ」はさらに言葉を続ける。
「あぁ、なるほど。そういうことですか。」
「「・・・・・・・・・・」」
「どうやら少し遅かったみたいですね・・・・・・・勇者さん、そして魔法使いくん。」
「「・・・・・・・・・・」」
「私は氷将のグラスト。魔王軍四天王のその1人をさせてもらっています。」
「「・・・・・・・・・・」」
「貴方達2人のことはよく知っていますよ。魔王様が頭を抱えていましたからね。」
「「・・・・・・・・・・」」
「決して近づくなと、魔王様からきつく言われていましたが・・・・・・・・・・・・・・・・・・見つかってしまっては仕方ないですね。」
「「・・・・・・・・・・」」
「申し訳ありませんが・・・・・・・・・・・・・・始末させていただきます。」
直後。
グラストから不気味な殺気が放たれた。
「「!!」」
その不穏な気配を感じ取った瞬間。
2人は全能力を、相手の攻撃への対応に注ぎ込んだ。
気になることはたくさんあるが、自分達を殺さんとする脅威との戦いを、シンとユウは優先した。
「うぐっ!?」
だが、そんな2人を嘲笑うかのように、突如衝撃波のようなものが発生し、ユウが後方へと吹き飛ばされる。
「ユウッ!」
「僕なら大丈夫だから! シンも気をつけて!」
シンはそれを追いかけようとするも・・・・・・・・・。
「貴方の相手は私ですよ、勇者さん。」
読んでいたのか、それとも最初から2人を分断させるつもりだったのか、すぐ前にはグラストが立ち塞がっていた。
「なっ!?」
動揺した一瞬の隙を突き、グラストは自らの細爪を振り下ろした。