花帆が急に一八〇度違う話題を持ち出した。

「私ね最近、歴史小説、特に戦国時代の武将を描いたものを読んでるの。戦国時代は男社会でしょう。その中でいかに他人を押しのけて親方の目に留まるか知恵を絞ってるのよね。今の時代と違って男女同権の世界じゃなかったから、男は女に相談するということなんか考えられなかった。だから男一人思考回路を働かしながらベストな答えを自身で導き出した。

武士の世界では同僚にも相談することはまれで、現代版、顔をうかがって敵を知る、の戦法だったのよ。今は主人が嫁さんの顔色をうかがいながら、時に申し開きする家庭が多いと思う。財布の紐は奥さんが握っているし、かなりの権限を持っている。でも美代子みたいに心が満たされない人もいる。何かが足りないんだよね。何かは何?」

結衣が

「戦国時代のように女は男の言いなりになっていた方が何も考えないで幸せかもしれない。従順に生きるのも女の道ね」

「あら、結衣ちゃん、何か悟りを開いたみたいね!」

と美代子がからかった。

「武士の世界では、ある程度位がある大名クラスに仕える中堅の武将ともなると、妻以外に側室を持つことが公に認められていて、本妻である妻も納得ずくで生活していたらしい。当時の武家社会では先祖代々暗黙の教育で、妻と側室の間はいざこざが表面的には生じていなかった。現代社会であったなら嫉妬の嵐で、収拾がつかない事態が想像出来る。美代子の山形家には本妻の美代子と主人の介助を一切任されている家政婦の美月さんが一つ屋根の下で生活している。武家社会ではそれなりの屋敷で、本妻と側室がある程度の距離を保って生活していたから大きなトラブルには至らなかったのよ」

と花帆が武家社会の夫婦の一端を話した。

「そうか、戦国時代と現在の生活様式を比較してみるとなんとなく問題点が浮き彫りになって来るね。私も花帆みたいに時代小説を読んでみようかな」

「戦国時代は完全に男社会だったので、妻は家庭内のことだけに注力して家を守ることに徹していたから、男女間の交流なんかもなかった。主人は毎日家に帰ってくることもなかった時代だから夫婦間も意外とクールだったかもしれない」

「クールなのは我が家と似てる」

と美代子は言った。

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