1.軍議
元亀二年九月二日<佐和山城:信長軍本陣>
伝令
「上様、宇佐山城主の森可成様よりの急報であります! 朝倉軍五万と浅井軍一万、計六万の軍勢が近江の坂本方面に侵攻してきて、一部が比叡の峰伝いに宇佐山城を攻撃してきました。至急の応援を要請致します。我ら森軍は、援軍到着まで城を死守致しまする!」
信長
「何、森がか! うーむ、我らは今佐和山城を本陣とし、朝倉・浅井の本隊と対峙している。それに加えて、先程石山本願寺の顕如が突如造反。これに呼応して紀伊の根来衆共が蜂起し、正に腹背の敵と対峙しており、迂闊に動けない状況下にある。勝家、何か良い手立てはないか!」
⇒うぬ、敵は宇佐山城を落として、我らの背後を突こうとしておる!
勝家
「はっ、残念ながら……更に加えて先程徳川家康殿より、武田信玄が近々上洛を目指して大軍を発進するとの報せがございました」
信長
「何、信玄が発つと。うーむ! 者共、我らはこのまま朝倉と浅井軍に対処する。森には兵を送れぬ。軍隊を三つに分けろ、勝家は第一軍を率いて朝倉を討て。長秀、秀吉は第二軍を率い、浅井をやっつけろ! 光秀は、儂と共に本陣を守れ!」
⇒森、許せ、頑張って死守してくれ、今そちらに兵を割けない……。
光秀
「上様に申し上げます! このままでは当方に不利につき、一旦岐阜へ戻り、体制を立て直す方が良いと思いまする」
⇒大変だ、今朝倉・浅井勢六万と戦っているのに、石山本願寺の一向一揆勢が蜂起、奴らは死ぬのも厭わず攻めてくる。加えて三好軍が、我らが釘付けになっているのにつけいって、京への進攻を窺っているとのこと……。そこへ武田軍が来たら、正に我らは四面楚歌、袋の鼠じゃ! 何とかこの戦を中止して、一旦急ぎ岐阜へ戻って、体制を立て直す必要がある!
信長
「分かっておる! どうやって立て直すかだ! 申せ……!」
光秀
「朝倉の陣立てを見ますと、あまり戦いに乗り気でないような気配が致します。恐らく内部に厭戦の気配が蔓延している様子であります。そこでこの度は、将軍様を脅かして、朝廷に朝倉との和睦の綸旨を上奏してもらうのが最善策ではないかと勘考致しました。今我ら織田軍は将軍家のご支援を戴き、将軍家の御旗を掲げており、いわば皇軍であります。このことから、公方様に陣頭指揮を執ってもらうべく、出馬をお願いすれば、将軍様は慌てて和睦に賛同するものと思われまする……」
信長
「ワッハハ、将軍義昭を脅すか! 面白い、分かった、すぐかかれ!」
⇒なるほど、これで一旦岐阜に戻り、体制を立て直すことができる! やはり光秀は良い。このように機転の利く者は儂が家来には少ない、幕臣を辞退させ、是非我が織田家に仕えさせよう……!
秀吉
⇒ふむ……儂も同じく和睦を考えておったが、将軍を脅かして動かすとは、さすが幕臣じゃ、儂の思いもつかぬことを言うわ!