隣国への旅路(道中)

「あの王様嫌いだ。」

「いきなりどうしたの?」

ただでさえ鋭い目つきをさらに鋭いものにして、シンは怒ったようにそう言った。

「国のためとか言って……全部自分のためじゃねぇか。」

「まぁ、気持ちはわからなくもないけどさ。」

「お前は、なんでそんなに冷静でいられるんだよ! いいように使われてるんだぞ! 俺達は!」

「僕もまったく怒ってないわけじゃないよ? 魔法撃っちゃいそうだったもん。」

「…………」

「…………」

「勇者って…………なんなんだろうな。」

「……え?」

「最初の頃は良かったんだ。助けた人達の笑顔を守ることができて誇らしかった、ありがとうって言われて……嬉しかったんだ。」

「…………」

「けど、だんだんこう思うようになった。」

「…………」

「顔も名前も知らない他人のためにあたり前のように命をかけて、とくに思い入れがない国をあたり前のように救う……そんなものが勇者なのかって。」

「…………」

「俺は……いったいなんのために戦ってるんだろうな。」

「…………」

「…………」

「自分のためでいいんじゃないかな?」

「!」

「僕は勇者じゃないし、シンの気持ちを理解することはできないけど……これだけは言えるよ。」

「…………」

「僕は君を否定しないし、肯定する。」

「…………」

「たとえ君がすべてのことに嫌になって国を滅ぼしたとしても…………僕だけは、君の傍で凄いねって褒めてやる。」

「…………ユウ。」

「だからさ、もっと自分の行動とその結果に希望を持ってもいいんだよ。」

「…………」

「…………」

「ありがとな、ユウ。少しスッキリした。」

「うん! それで良し!」

シンの穏やかな表情を見ると、ユウはニッコリと微笑んだのだった。

守り切れず、その手から「命」がこぼれ落ちるたびに、2人は王様からの罵倒を浴び続けた。シンは我慢の限界だったが、ユウがいつも隣で彼を宥めていたため、「最悪な事態」にはならなかった。もしもユウがいなければ、今頃王様はこの世界からいなくなっていたことだろう。