人間性が完成されていく高校生の時期に、こんな尊敬できない大人を見てしまう生徒が気の毒だ。道徳性のかけらもない教師の存在をみた生徒達には道を外さない大人になってほしいと願うばかりだ。
「生徒に寄り添うことはできないのか」
少しくらいは生徒想いの教師であってほしい。
「寄り添うという意味がよくわからないな。学業を教えているだけで充分生徒の味方になっている。だけど限度ってものがある。生徒が問題を起こしたら、学校側はブランドが落ちるのを恐れて生徒を退学させる。担任なら生徒側をかばってやるべきだと思うが、俺は学校全体を敵に回してまで生徒に寄り添うつもりはない」
「俺の母校も、教師は生徒の味方には見えなかったな。ドラマで見るような教師はテレビのなかにしか存在しないんだな」
「大正解」
トラヴィスは指をパチンと鳴らした。
「ギルバートは学校事情をよく理解しているな。校長に学校方針を変えることを提案した教師は次の年には姿を消す。俺みたいな教育をしていれば消されることもなく出世も出来る」
「誰も校長には逆らえないのか、残念」
軍のなかでも上官には逆らえなかった。上に逆らうことができない構図を誰かが破ってくれる希望は廃れていくばかり。
「校長先生でも保護者で形成される役員会の組織には手も出ないと聞いたことがあります」
ステファニーの発言でトラヴィスのクッキーを持った右腕は、口に届きそうなところで歯車が絡まったように止まった。
「役員会か……。いいや、校長の方が権力はある」
トラヴィスのトーンが次第に落ちてきた。
「役員会全体で校長先生や学校の組織を変えて、子供たちにとってより良い環境を整えてあげられると思うわ」
「確かにそれはよくニュースで見かけますね。しかしステファニーさん、役員会という組織は校長をやめさせるために存在しているわけではないのですよ」
「いえ、役員会は教育効果を上げるために存在する組織です。問題があると教育委員会に訴えることや説明を求めることは可能だと……」
ステファニーは食い下がった。初めて出会った時も俺のいうことを頑なに受け入れようとしなかった。自分の信念を貫き通す俺とそっくりだったので結婚までありつけた。