三章「ロマンシング・デイ」当日、彼らは帰ってくる
トラヴィスが何をいっているのかわからない。しかし、変人だったのは間違いなさそうだ。
「高校の教師をやっているんです」
トラヴィスは何食わぬ顔で職業を明かしてきた。俺はアッと驚いた。昔から短気なトラヴィスが教育する立場になるとはどういうつもりだ。どのようないきさつで教師になろうと考えたのだ。
「なぜ教師なんかしている」
と聞いてみる。
「ギルバートみたいに一生働かないで遊んでいけるほど金をもらっていなんだぞ。むしろ、そっちが一握りの人でしかないのに、自分が基準みたいに話すのやめろよな」
働いている理由を聞いていたわけじゃなかったが、トラヴィスの返答は少し頭にくる。
「トラヴィスこそ、自分だけが辛い思いをしていると思うなよ」
「思うさ。ギルバートとライトは第一部隊だから裕福だし、ドランは第九部隊だけど、本業で儲けている。帰ってきて働いても良いから、せめて第四部隊までには所属していたかったさ。それ以下は平均年収と同じぐらいだけど、時間と命を捧げている割には報酬が合わないだろ」
怒り慣れているのか、姿は生徒を叱る風格であるものの、内容はガキ同然だ。
「軍は実力主義だったからだろ。報酬が欲しかったら活躍してキャリアアップするべきだったんだ」
「強制的に働かされているのに何がキャリアアップだ。それが嫌だから俺は年功序列の公務員になってやったんだ」
「結局国のために働いていることには変わりないんだな」
「だから俺は真面目に働かないし、子供に興味を持たない」
思春期の高校生というのは平気で教師に向かって失礼な態度を取る。そんな態度をとられても感情任せに怒らず、正しい人間となる方向へ導く指導をするのが教師だ。トラヴィスは全く教師に向いていない。
「どうやって子供に当たっているのだ」
「俺に生意気な態度を取るような行動をしたら、生徒を呼び出して気が済むまで説教をして謝るまで椅子の上に立たせる」
こんな教育だと生徒から反感をかうだけだ。なぜ俺はこんな奴と仲良くなれたのだ。
「いつかひどい目に遭うぞ」
「ひどい目って?」
いいながら右腕でクッキーを取る。クッキーを口に放り込む反復動作を続けるトラヴィスこそが子供に見える。
「そうだなー。例えばクラス全員が反乱を起こして暴力的な手段に出るセン公狩りでも起きるかも」
「甘いな。生徒に進学や将来のことを話題に上げたら誰も俺に逆らうものは出てこない」