「砂漠に咲く花」

今日 通勤途中ふと見たら どこかのおっさんが 胸に花つけて 歩いてた

普通のおっさん ビジネススーツ

今日は平日 朝7時 イースターパレードはもう 終わったぞ?

けど そんなことすぐ忘れてしまった 人それぞれの事情 大都会

翌朝 ちらほら電車の中に花つけてる くたびれたおっさんズ

安そうなスーツ パーティじゃない

お互い 知り合いのようでもない つけてる花も てんでばらばら

これ 新手の映画の宣伝か? 俺はこっそり 周りを見回す

誰も 花に目を向けちゃいない 新聞読んだり 音楽聞いたり

やれやれ 宣伝係も大変だ 電車を降りて さくさく歩く

なんか花つけてる人 多いけど 会社会社! 仕事仕事!

朝から 嫌みな上司につかまって 一日の段取り 台無しはごめんだ

バン! とその上司に出くわした 胸に しおれた白い花

お似合いですねと 言うべきなのか?

悩む俺を尻目に エレベーターへ

俺も慌てて 乗り込んだ

オフィスもちらほら 花畑 つけてる人も いない人も

イベントやるって 聞いてないけど 俺つけてなくて いいんだよな?

誰かに 聞いてみなくっちゃ

花つけてない隣の奴に 聞いてみるだけど なんだか 話が通じない

ほらあいつも 花つけてるじゃん? そう言っても 不思議顔

お前寝不足かと 言われてしまった

慌てて ジョークにごまかして 仕事始めるけど 心臓ドキドキ

えっ あれ俺にしか見えてないの

さりげに 周りを見回してみる 風にゆれたり すっごいリアル

担がれてる? でも理由がない

も一度 誰かに聞きたいけど 頭おかしいって思われたら ヤバい

見えないふりして 仕事を進める 誰も 花なんて話題にしてない

翌朝 そぉーっと家を出る

花なんか見えない 見えませんように!

だけどああ なんだか増えてる スーツの肩に花 あっちは腹に花

5月の日ざしを浴びて そよいでる行きかう若者中年 スーツTシャツいろいろだけど

服の肩やら背中やら腕や脚にまで 花がついてる

いや待てよ 今見たの何だ

俺は 思わず止まって目をこすった

今通り過ぎた Tシャツ姿の兄ちゃんのどから 花が生えている……ように見えた

まさか! はっと振り返ったが とっとと地下鉄の入口に 消えていた

いやきっとあれは 何かの飾りだ ひもや鎖は 見えなかったけど

パンクな格好に 花つけるのかとか思うけど 新しい流行りなのかも

そう もちろんそうだ!

会社でも 花は増えていた 服の腹やら背中やら 男も女もぽつぽつ 花がついている

なぁ ホントにこれ見えないの?

聞いてみたいけど 知らぬふり

【前回の記事を読む】詩集「まかろんのおもちゃ箱」より三編