道の向こうからサイレンを鳴らしたパトカーや消防車がやってくるのが見える。
『お詳しいんですね、仲山さんは警察関係の方ですか』
「違うといえば違う。そんなことより今知りたいのは、この観覧車『ドリームアイ』のシステムだ。緊急時のマニュアルは用意されてると思うんだが、知っているか?」
『はい、研修で読んだし、実践もしてます。観覧車で事故があった場合の対応とガイダンスの流し方とか、そういうのが書いてあるものですね』
「そうか、犯人は間違いなくそのマニュアルを見ているし、ドリームアイの構造に精通してる。内部の人間で、かつ機械に詳しい可能性が高いんだ。このシステムの責任者はわかるか?」
『えっと、ドリームアイはこの遊園地で一番新しいし、メインアトラクションなので、単独で運用を担う部門があるんです。そこで設計から運用までを統括してるのは、システム運用部の宮内さんって男性です』
「話したことは?」
『さっき電話で二回指示を受けました。ちょっと緩い感じの人でしたね』
「そうか。じゃあ、話しやすいってことでもあるだろうな。それで、これは個人的な頼みだが、その宮内という男に直接接触してみて欲しいんだ」
『えっ、その人が犯人なんですか?』
「いや、何も疑ってるわけじゃない。ただ、今は情報があまりにもない。この通話も犯人はおそらく聞いている。逆にこちらから感情を煽ることもできるはずだ。頼むから、地上で探ってくれ。俺は娘を助けたい」
『でも……捜査は警察に任せた方がいいんじゃないですか?』
「そうだが、まず観覧車ジャックのことを警察に伝えるのは君にしかできない。ドリームアイからスマホなどは使えなくさせると、犯人が言ってきてるんだ。もうじき電波は一斉に遮断されるらしい。これからの連絡は、今使っているゴンドラ内の個別通話か、アナウンス用のスピーカーでしかできないかもしれない」
『わ、わかりました……。一応、できることはするつもりです』
混乱してて、うまくできるかわかりませんが、と滝口は通話口の向こうで呟く。
「ああ、混乱してるのは俺も同じだ」
仲山は彼女に同意する。そして、もう一言を言い残した。
「だが一つだけ覚えておいて欲しい。……警察は絶対に信用するな。真実は他人から教わるものじゃない、自分で考えることでしか見つからない」