ミユキさんが現れたのは、私が小学校三年生の頃だった。フランス映画に出てくるような明るい茶髪のショートカットのパーマヘアに、小柄で細身の体型とそれに良く似合う黒のニットのタートルネック、すらりと伸びた脚の美しさを際立たせるスキニージーンズという出で立ちの彼女は、明るい声色と共に私の前にかがんだ。母の高校時代の友人である彼女は、世界中を旅歩いている人だった。
母とは卒業後は疎遠になり、連絡もあまり取らなくなっていったという。しかしそんなある日、家から数駅離れた街中で母が買い物をしている際に、ふたりは偶然にも再会し、嬉しくなった母は思わず彼女を家に招き入れたのだった。ミユキさんは短期の仕事で旅費を稼ぎ、ある程度資金が貯まったらすぐに海外を回るという生活を繰り返しているらしく、母と再会した日も帰国したてで家に帰る途中だったという。
「ごめんね、長旅で疲れてるよね」
「いいよ、私もすごく嬉しかったし」
その言葉に母は微笑み、ミユキさんの大きなスーツケースの中から取り出されたスイス製のチョコレートを皿に並べた。普段食べているものとは全く違うそれは、コーヒーの香りと合わさり子どもである私をも誘惑した。
「今も実家暮らし?」
「一応ね。でも勘当寸前だよ」
「お嬢様なのにね」
冗談めいた母の口調に、うるさいなあ、とミユキさんは苦笑した。その後、ふたりの会話からわかったのは、ミユキさんの家が地元では有名な名家であることと、ミユキさんはその家の末っ子であるということだった。
その日以来、彼女は帰国するとその国の土産と現地で撮った写真を持って私の家に訪れるようになった。