その頃にはテレビ番組はバラエティーからニュース番組に移り変わっており、そこでは選択的夫婦別姓について取り上げられていた。

「最近これよく見るよなあ」

そんなに気になることか? と、父の能天気な声と、テレビ画面を見つめる母のどこか虚ろな表情がひどく対照的で、いつか訪れるであろうその時を私は空想した。そして、記憶の箱の中に閉じ込め切れていない、とある写真を思い出していた。母と母の旧友がキスをする姿を収めた、あの写真を。

幼少期の家族との記憶は、物理的にも精神的にもあまり残されていない。

父は新卒で入った証券会社に勤めており、暦通りの勤務だったが、土曜日は仕事の延長で毎週のように上司や得意先との接待ゴルフに行き、その次の日は疲労のため出かけるのを嫌がった。そのため、私の記憶に残っている家族旅行は、私が年長の歳に行った箱根旅行くらいだ。

紅葉が真っ盛りの時期で、景色こそ美しいものであったが、それに比例するかのような人混みの多さに圧倒されたのか、父の表情やしぐさからは疲れと苛立ちが滲み出ていた。

だからなのか、旅行中に撮った写真の中の私はどれも居心地が悪そうだった。そしてそれ以降、家族で旅行に行くことはなかった。