次の日の朝、一郎も純二も宏も夕べのカラスが気になって、早起きしていました。母の春子さんが、「皆、早く朝ご飯を食べてしまいなさい。それまでカラスを出したらいけませんよ」

と注意しました。

全員で朝ご飯を食べていると、飼育かごの中で入口をクチバシで挟んで、“ガタガタ”と音を鳴らしています。

「“朝になったから、お腹が減ったよ”と言っているようだけど、もう少し待っててね」

と母の春子さんが言うと、カラスは静かになりました。朝食が済んだので、一郎がかごの入口を開けてあげました。するとカラスは直ぐに出てきて、ピョンピョンと跳ね回っています。

「ご飯が台所に用意してあるわよ」

と母の春子さんが言うので、純二がお皿にご飯を載せて持ってきて机の上に置くと、カラスは首をかしげながら、右目で見て、左目で見て、2、3歩進んで、

「それでは、いただきますよ」

と言っているように、顔を上げてチラッと皆を見て食べ始めました。

丸のみで食べるので、直ぐにお皿の上は空になりました。その後、純二の机の上や、棚の上に飛び乗ってピョンピョンと歩き回っています。そばに行って頭でも撫でてあげようかと思って近づきますと、ピョンピョンと逃げてしまいます。決して触らせませんが、何か楽しんで遊んでくれている様子です。ご飯を食べると直ぐに、糞をあちこちにして回ります。

「純二、そこに糞をした。拭いてよ」

と一郎が叫びます。あまり臭いはないのですが、不潔極まりない状況です。直ぐに、拭き取るのですが、間に合わないこともあります。

「机の上は新聞紙を敷いておこう」

と一郎が提案しました。それからは、カラスが来そうなところにはどこにも、古新聞紙を敷いて備えました。そのうちに、遊ぶのにあきたのか、窓の方に行って“コンコン”とガラスを突っ突きました。窓を開けると、窓の桟に留まって外を眺めたかと思うと、そのまま外に勢い良く飛び出していったのです。

窓の向かいには隣の車庫の屋根が見えます。カラスは屋根の棟のてっぺんに止まって、あたりをグルッと見て、キョロキョロと安全を確認しているようでした。大丈夫と見ると、力強く羽ばたいて正面の北校に向かって一直線に飛んでいきました。カラスが遠ざかるのを見つめていると、直ぐに北校の上を越えて見えなくなりました。一郎も純二も、急いで支度をして学校に出掛けました。

クロとの毎日一郎と純二は学校から帰ると、大学のグランドでボールを蹴って遊んでいました。そこには野球のバックネットとピッチャーのマウンド、サッカーのゴール、ラグビーのゴールと運動施設は何でもそろっていました。夕方になって遊び疲れて家に帰ってきたとき、カラスが窓の桟に止まっているのに純二が気づいて、

「カラスがまた来ているよ。お母さん、カラスを中に入れてもいい?」

と尋ねました。

「今、食べ物を片付けますよ。それからならいいですよ」

と春子さんが応えました。

テーブルの上を片付けるのを待って、純二は窓を開けてあげました。カラスはピョンピョンと机の上に乗って、一郎と純二を見て、

「ただいま帰りました。ああ疲れた」

と言っている様子です。昼間は戸締りをして皆出掛けますので、窓は閉まっています。窓に人影が見えるようになって、カラスは戻ってきたのです。

「鳥は早く寝させた方がいいよ」

と母の春子さんがご飯をお皿に載せて持ってきました。一郎がかごの中にお皿を置くと、ピョンピョンと跳ね歩きしてかごに入りました。お腹が空いていたのでしょう。直ぐに食べてしまいました。食べるのをじっと見ていた純二は、昨夜のように大きい風呂敷をかけてあげると静かになりました。

【前回の記事を読む】【小説】窓を“ガタガタ”と揺らすカラス。その様子をみて父は「うちで飼ってみようか」