第三のオンナ、
まゆ実
場所を変更し、わたしと千春は人気のない校舎裏に移動した。その道中、ゆきかう人たちが何度振り返ったことだろう。
「ちょっと離れて歩いてくれる?」
そうお願いするも、千春は聞く耳を持たず、コバンザメのようにくっついていた。
「何が目的なの?」
あえて険のある声で尋ねた。
「昨日、あんなこと言って」
千春は一瞬とぼけた顔をしたが、すぐに思い出した顔になる。
「ああ、三人めに会うと死ぬ、ですか」
昨夜、気になってなかなか眠れなかったので、ドッペルゲンガーについて調べてみた。同一人物が同時に複数の場所に姿を現す摩訶不思議な現象。日本では「分身」「影法師」などと呼ばれる。これとよく似た現象にバイロケーション(複所在)というのがあるが、こちらは自分の意志で複数の場所に姿を現すことを指すらしい。ドッペルゲンガーは自分の意志とは無関係に起こるのが特徴だ。
ネットでざっくりと調査した限りでは、千春が言うように「三人めに会うと死ぬ」という記述はあることはあるが、多くは「自分の分身を目撃すると死ぬ」といった、死を予兆する不吉な現象のようである。
だが、ドッペルゲンガーを体験した者の中には天寿をまっとうした人もいるらしく、必ずしも「死ぬ」「死期が近い」というのは絶対条件ではない。
三人めの根拠は一体なんなのだろう……。わたしは単純に聞いてみたかった。
「どうして、三人め、なの?」
「さあ? 自分にもわかりません」
「バカにしてるの?」
「してません」
どうして千春はこんなにも人をイラつかせるのだろう。
「根拠あるはずよね」
「ありません。だから試してみたいんです」
千春が不気味に笑った。
「三人めに会うと本当に死ぬのかどうか」
「何言ってるの?」
この子やっぱり気味が悪い。少し、ではなく、かなり。
「さっきも言いましたけど、知ってます? ツイン・ファクトリー」
「早く教えて。知らないから」
じれったいので、話を先へと促す。
千春は「これです」とスマホを取り出し、操作した。
画面いっぱいに双子らしき人々の写真が無数にちりばめられたサイトのトップページが表示された。
サイトタイトルにはツイン・ファクトリーと書いてある。
「すごいと思いません? このサイトに写真をアップするだけで、自分とそっくりな人を世界中から探せるんです。しかも無料で」
そう言って、千春はサクサクッと操作を続ける。一人の人物に対してそっくりな人を比較しやすいように表示させた。
わたしは目を丸くし、食い入るように画面を見た。
性別、年齢、肌の色に関係なく様々な人の顔写真が並んでいる。
どこが似ているの?
と感じる人もいたが、いずれにせよこんなサイトがあったとは驚きである。わたしもご多分に漏れず、流行りものが好きな女の子のようにSNSを頻繁に利用するけれど、情報に強いわけではない。