第三のオンナ、

まゆ実

「あら、今日は早かったのね」

亜矢との予定をキャンセルして帰宅すると、母美すずが、わたしに関心を示すふうでもなく横目で尋ねてきた。母はこの日、いつものように友人たちを自宅に招待し、ちょっとしたホームパーティーを開いていた。

「あなたも食べる?」

「わたしはいい」

即座に断ると、母は友人たちとのおしゃべりに戻った。

小・中学校でPTA会長を務めるなど、娘の教育に熱心だった母が今では嘘のように関心がない。中学卒業後、「これからはママの自由にさせて。まゆ実も好きなようにしていいから」と言われて驚いたときのことを今でもはっきりと覚えている。

わたしは知らなかったのだが、母の興味はすでに、教育から美の追求へとシフトチェンジしていた。娘の義務教育が終わると同時にPTA会長を退任という解放感がそうさせたのか、それとも長らく住んでいた東京都の多摩地域東部に位置する調布市から都心へ引っ越しという環境の変化がそうさせたのか、はたまた前々から興味があったのかはわからない。

そして、これまたいつ応募したのかわからないが、母は五年前、美魔女コンテストのファイナリスト十人に選ばれた。当時、五十三歳。奇跡の五十三歳と呼ばれた。

「美すずさんお料理が本当にお上手ね。特にこのゴボウ料理すごく美味しい」

「嬉しいわ」

「箸がすすんじゃう」

「ゴボウで善玉菌を増やさなきゃ」

「今はやっぱり腸内フローラですよね」

などと言っては、美魔女たちは盛り上がっている。もうすぐ還暦になるというのに、母の美貌は衰えを知らない。特に、顔が。メイクの魔法とでも言うのだろうか。美にますます磨きがかかっている。

わたしも母の年齢になったらあんなふうに濃いめのバッチリメイクになるのかと思うと、ちょっぴり怖くなる。

そんな母を、言葉は悪いが、父はほったらかしにしている。父はまさに医師の鏡で、今も昔も変わらずに患者と向き合うことだけに全力を注いでいる。

「あ、そうだまゆ実」

二階の自室へ向かう途中、母に呼び止められた。

「おとといガーデンプレイスにいたでしょ」