「ちょっと込み入った事だから、人の居ない所で聞いてほしいのよ」

(なだ)めるように言う私、気を遣うよ、まったく。するとようやく

「わかった」

と言ってくれた。

「じゃ私さきに行ってるね。連れ立っていくと変に思われるから」

事は半ば成就したように思われ、嬉しい気分で急ぐ。体育館裏に来たあいつは開口一番、

「お前、月曜日から俺の事ちらちら見に来ていたな、今になって恋愛モードじゃないよな?」

何を抜かしておるか! この野郎ーうぅーふぅー、落ち着け私。引きつる顔に無理矢理笑顔を作り、呼び出した目的を説明する。

「そういうことじゃなくて、今度の土日どちらかで時間作れないかなぁ……実は家の近くに八幡社と言うお社があるんだけど、元々は入尾城と言う城址に建てられた物らしいんだけど、私お社の中を見てみたいなぁーと思っちゃって、今趣味で色々な昔の事を調べているんだけど、あんた入尾城主の直系の末裔らしいから、興味があるなら一緒に見に行かないかなと思った訳よ。どう?行く、行かない」

話を聞いていたあいつは優等生(づら)で答える。

「ああいう所は勝手に調べたらダメなんじゃないか」

「そう言う正論を聞くために話したんじゃないのよ!まあ、あそこはね、忘れ去られたような所だから人も殆ど来ないし、だから私は中を調べてみようかなと思ったの、興味無かったら仕方ないけど(どうか興味あると言ってくれ!)お父さん郷土史研究家だし、あんたもそれなりにと思ったから一度誘ってみたのよ」

苦しい誘い方だけど、それなりに辻褄は合っているよね。

「うぅーん、入尾城の事は父さんも割と調べているみたいだから、何かわかったら喜ぶし……よし、行くよ。土曜日は部活があるから日曜の午後二時頃でどうかな?」

「OK! じゃ二時に現地集合ということでよろしく」

私は弾む気持ちで答えると、何やらまだ何か言いたそうな顔をする。

「お前も部活あるだろう?」

「私は夏に試合も無いし、ちょっと前までは出ていたけど、一応春で卒部ということで最近は帰宅部になりました」

私は涼しい顔で言い切ってやる。

「真さんも来るのか?」

と急に兄の名前を出されびっくりしてしまった私は、慌てて言い繕う。

「お兄ちゃんには内緒だよ。私の趣味なんだから、じゃ日曜に」

話はした――誰かに見られたら何言われるか分からないから、早くこの場から去らなければ。タマは何を用意するのかなぁー明日報告かたがた見に行ってみよう。

【前回の記事を読む】「あいつに私が頼みに行く?無理無理」思わず拒否したタマのお願い…