子供だったハナコは、だんだんと成熟したメスのマッコウクジラへ育っていった。何度目かのデートの時、ハナコはコジローにプロポーズされた。ハナコは迷った。ハナコももちろんコジローが好きだ。結婚したい気持ちはコジローと同じなのだ。けれどもハナコにはやり遂げなければならない仕事が残っていた。それは言うまでもなく、デビルへの復讐だ。
もちろん、たとえデビルに復讐したからといって、お父ちゃん、お母ちゃん、お兄ちゃんが生き返るわけではなかったけれど、このままでは、お父ちゃん、お母ちゃん、お兄ちゃんがかわいそうだとハナコは思うのだ。何とかしてデビルをやっつけて仇討ちをしなければならない気持ちを、ハナコはどうしても抑えることができなかった。
優しかったお父ちゃん、お母ちゃん、お兄ちゃんの仇を討つまでは、ハナコに平穏な日々は訪れないのだ。
「ありがとう、コジロー。わたしもコジローが好きよ。プロポーズされてとても嬉しいわ。でもわたしは、どうしても家族の仇を討ちたいの。だからそれまでは、誰とも結婚できないの」
「ハナコ……」
「ごめんね、コジロー……」
コジローは仕方なく帰っていった。そんなハナコとコジローの会話を、岩陰からそっと聞いていた一頭のマッコウクジラがいた。 ジローだった。ジローはコジローが帰った後、ひとり、物思いに耽るハナコの前に現れた。
「あっ、ジローおじさん」
今しがた、コジローのプロポーズを断ったばかりのハナコは、ジローの出現に慌てた。そんなハナコに、ジローは自分とハナコのお父ちゃん、お母ちゃんの関係を語った。