仲山は緊張しつつ、備え付けの電話を手に取った。先ほど、『小人』は携帯の電波を遮断すると宣言している。しかし、この電話は流石に妨害できないだろうと考えてのことだった。

呼び出し音が鳴り響く。他のゴンドラの人間も同じように通話を試しているのか、なかなか繋がらない。もしくは現場が混乱していてスタッフが不在なのかもしれないと、仲山は、神頼みをするかのように受話器を握りしめた。

『はい、こちらドリームアイ運営局です』

慌てた様子の声が聞こえた。仲山にとっては聞き覚えがある声だった。

「あんた、あの係の人だな。名前は確か滝口さんだったか。名札を見たから覚えてる。とりあえず無事でよかった。一体、今何が起きてるんだ?」

『ええ、はい。いえ、あのう』

滝口は混乱し、呂律が回っていない。仲山からの問いに応えられなかったが、ゴンドラが地上に落下し、大きな爆発が起きたのだからそれも無理はない。

「運営局は無事なのか?」

『あ、はい。ゴンドラが……落ちましたが、ええと、スタッフは……』

「滝口さん、気持ちはわかるが落ち着くんだ。俺の名前は仲山秀夫。娘と二人でゴンドラに乗っている。落ちたゴンドラ以外の乗客は全員無事のようだ。だから落ち着いて聞いてくれ」

努めてゆっくりと話す仲山に、滝口の気持ちはいくらか落ち着いたようだった。

『ええと、ここはドリームアイの真下にある運営局で、システム管制室から指示を受けて動いてます。それで、私達は避難誘導をするように言われて、私以外のスタッフは今、入場待機列のお客様を避難させてます』

「なるほど。君は? 連絡係か?」

『はい。システム管制室の宮内さんって人の指示で、ここで連絡待ちを』

「その部屋にいて、何かおかしな様子はあるか? 計器が壊れたとか、制御が利かないとか」

『あ……』

仲山に状況を言い当てられた滝口は動揺して続きを話せない。

「やっぱり、ドリームアイは制御できていないんだな?」

それを認めてしまうとパニックになりかねないと、滝口は返事を渋った。そこに仲山が続ける。

「そっちの事情はわかった。じゃあ今から言う話を落ち着いて聞いて欲しい。これは、観覧車を使った計画殺人だ」

『は……はい?』

殺人と聞いて、滝口の声が上ずる。

【前回の記事を読む】「まさか、やめろ!」娘と乗っていたゴンドラが何者かにハイジャックされて…