筋萎縮性側索硬化症患者の介護記録――踏み切った在宅介護

(三)てんてこ舞い、夜逃げ、朝逃げ、昼逃げ、大わら

『人工呼吸器装置』導入および『胃瘻』

造設わが家の場合

一晩の猶予を置き、翌日病院に行きますと、本人の結論が出ていました。「呼吸器を装着する」という回答でした。夕べかなり呼吸困難で苦しんだと当直の看護師さんよりお聞きしました。

人工呼吸器は鼻マスクとは違い、本格的に器械の力を借りて、人工的に呼吸をするものですから、夫が当初から「延命措置は絶対にしない」と決めていた構えと百八十度違うことになるので、本人の心の葛藤が大きいのではないかと戦々恐々の思いでした。

しかし結果的には、本当に装着して良かったとつくづく思いました。私も、呼吸が浅くなって、命を見つめる思いで毎日毎日を送っていたあの張り詰めた何とも言えない緊張感が、今は夢のようだとはっきり夫に話しました。

私が、「呼吸器装着を決めてくれてありがとう」と言いますと、夫は無言でした。

始めのうちはまだ器械の呼吸と自発呼吸が具合よく噛み合わないのか、もどかしげな表情がありましたが、だんだんと慣れてきて、看護師さんに吸痰していただいたあとは、スッキリとさっぱりした顔を見せるようになりました。そして自分の心の中の『人工』を消化したのか、それからは鼻マスク装着時より明るい笑顔を見せるようになりました。

お世辞とは言え看護師さんたちから「堀内さんの笑顔はとてもすてきよ」と言われるまでになりました。私たち家族はこの日をずっと待っていたのです。やっと安堵しました。

これから長く続くことになるであろう闘病生活の第一歩は、こうして人工呼吸器の装着から始まりました。「息苦しさ」という現状に押し切られての実行ではありましたが、夫は自分自身で納得しての決断となりました。

しかし、次に、一難去ってまた一難。日ならずして病院から投げかけられたものは『胃瘻』でした。先に大学病院よりの宿題となっていたものでもあり、心の準備は出来ていたので驚きはしませんでしたが、じわじわと外堀を埋められていく思いがいたしました。

病院としては誤嚥の危険性が高いので、なるべく早いうちに胃瘻造設はしたほうが良いとのことでした。ネットでいろいろと調べてみましても、球麻痺患者の『嚥下や構音障害のための経口摂取不可能』は大きな問題として記されており、病院からの『胃瘻案内』の内容も納得せざるを得ないものでした。

そうこうしているうちに発熱が続き、レントゲン撮影の結果、肺炎と診断されました。ご多分に漏れず、いわゆる誤嚥性肺炎ということでした。我々家族の優柔不断さをあざ笑うかの如き病魔の襲来でした。

そこで今後のことも考え、熱が下がり体力が回復した時点で『胃瘻造設』と決めました。K医大から宿題として託され、私もネットサーフィンをして調べに調べて必死になって資料集めをしたのに、発熱、肺炎という過酷な現実の前には刀折れ矢尽きた感じで、議論の余地は何もありませんでした。

もちろん本人も渋々とは言え、納得した上のことでした。