圭が演壇の上を右に左に動きながら医療への応用事例を紹介している時、ホールの座席の上段に座り、圭の話にじっと聞き入っている白衣を着た女性の医師の姿に注意を奪われてしまう。

その医師をどこかで見たことがあるのだが、なかなか思い出すことができない。

講演は宇宙探査と気候変動の分野における応用の話に移っていく。圭は壇上で両手をおおげさに使い、巧みにジョークを交えながら話を進めていき、満員の会場からは笑い声も起こる。このようにして一時間半の講演は時間が過ぎ、ホールの時計はもう講演終了予定時刻を指している。

圭は講演台の前に立ち、最後にその日の講演会の話を締めくくる。

「今日は最新のAIテクノロジーを活用した医療分野への応用を中心に、いろいろとお話をさせていただきました。本日の講演内容が、皆様の医学のご研究にお役に立つことができましたなら幸いです」

圭が壇上で頭を下げると、集まってきた医師達から大きな拍手が沸き起こっていた。

会場内に司会者のアナウンスが流れ、二十分間の休憩に入る。圭がマイクのヘッドセットを外して講演台の上に置いた時、先ほどから気になっていた白衣を着た女性の医師が立ち上がるのが見える。

圭はその医師の姿を見てハッとする。

(あの女だ。白衣を着けていてよくわからなかったが、あれはあの時、龍の刺青をした男と一緒にいた女だ!)

そこに、加藤がやってきて声をかける。

「相変わらず見事なプレゼンテーションだな。俺もおまえの話に引き込まれたよ。フリーディスカッションの後は昼食会だ」

そう言って加藤は圭の肩を叩き、自分の席に戻っていく。

二十分の休憩時間が終わりその女性の医師も席に戻ってきて、フリーディスカッションが始まる。圭は難しいコンピューターやITの話はいっさいせず、軽妙にジョークを交えて医師達の質問に答えていく。

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