どうやらここは遊郭らしい。一人の女性が英良に声を掛けてきた。
「そこのあなた、寄っていかない?」
と言う女の顔を見た。英良が俺のこと? と言うと女は軽く頷き、微笑を浮かべた。その微笑みの中に深い妖気を感じ取った英良は
「いいです」
と断り歩き続けた。
女の執拗な誘いとすぐ後ろを迫ってくるものに、英良は
「私が求めていることは違います」
と言うと周りの気配は逆毛立ったように殺伐とした。
「言い方を変えましょう。あなたが私に求めていることと私があなた方に求めていることとは全く異質のもの。私はあなたには何も求めてはいません。求めるものがないと言ったほうが良いでしょう」
と言い変えた。
「私は先を急いでいます。寄り道はできないのです」
と拒否した。英良は決して振り向かなかったが、今では悪鬼を感じ身の危険を感じていた。
「まずい、捕まったら殺される」
と。周りの木造の建物は全て岩の居城に変わっており、漆黒の闇になっていた。周りは悪意のある目しか見えず、多数の手足が短く腹が出ている黒い人型のものに囲まれている。英良が絶望に支配された瞬間だった。太い腕のようなものが英良の身体を抱え込み連れて行った。目を開けた真っ暗な視界の中から眩しい小さな光の球体が現れた。それはビー玉くらいの小さな光体から次第に大きくなり直視はできないが薄目を開けて見てみると人間の形になるのが見て取れ、大きな光が一人の若い女性の姿へと変わっていった。
「……峠原さん? ……英良さん?」
声が聞こえた。
「びっくりさせてごめんなさい。私は文字村美姫といいます。先ほどは危ないところでしたね。普通の人だったら、今頃闇に飲まれ英良さんはここにはいなかったでしょう。私達は会うことさえなかったでしょう。やはり英良さんは選ばれたお方なのでしょうか……と言うのも私が今ここにいるのは……観音様のお告げなのです……英良さん……分かりますか?」
英良はただ若い女性を見ている。