最後に「二階の掃除するぞ」と由美に声をかけて、掃除機を持って二階に上がった。

掃除を終えて、(ふすま)を開けて一つになった部屋を見回すと、家具のあった場所の畳の色と、僕たちの描いた絵やカレンダーのあった壁の色がまだらで、ちっともきれいな部屋じゃなかった。お父さんとお母さんがいて、ずっと暮らしてきた部屋が空っぽだった。布団の上で相撲を取ってくれたお父さんも、病気のときに優しく看病してくれたお母さんもいない。由美も黙って部屋を見回していた。

階段を上がる足音がして、千恵姉ちゃんがぼんやり立っている僕たちの肩に手を置いて両脇に抱え込むようにした。

「新しいお家で一緒に楽しく暮らそうね」

静かで力のこもった声だった。由美はお姉ちゃんの腕を両手でつかんで、何も言わずにうなずいた。お姉ちゃんの腕には汗が光っていて、いい匂いがした。でも部屋を出るとき、急に、すごく、お父さんとお母さんに会いたくなった。僕が元気のないとき、すぐに

「ヒロちゃん、どうしたの?」

と肩に手を置いて顔をのぞき込むお母さんに会いたかった。大きな声で笑いながら路地でキャッチボールをしてくれたお父さんに会いたかった。振り返って部屋を見て、本当にお父さんもお母さんもいないことを確かめてから階段を下りた。足元がにじんで見えた。台所から空っぽになったお父さんの作業場に下りる所に、お父さんとお母さんのお骨の入った箱だけが並べてあった。

トラックはもう出たあとで、僕がお父さんの箱を持ち、由美がお母さんの箱を抱えて昭二兄ちゃんの車に乗ろうとしたら、手伝ってくれた近所のおじさんやおばさんたちが口々に僕たちを励まして声をかけてくれた。隣のおばさんは涙を拭きながら、

「いつでも遊びにおいでね」

と僕たちに言って、

「千恵ちゃん大変だろうけど、よろしく頼むね」

とお姉ちゃんの手を両手で握った。お姉ちゃんは

「はい。大丈夫です」

と周りに聞こえるような明るく大きな声だった。おじさんおばさんたちはお骨を抱えて乗った僕たちに、窓越しにいろんなことを言って励まし続けてくれた。僕は座席で箱を抱えてなんと言っていいかわからずにうなずいてばかりいた。

車が動き出して由美が後ろに向かって手を振るから、それに合わせて体をひねって手を振った。おじさんやおばさんたちがひとかたまりに集まって手を振っていた。みんなそっと手を振っているみたいだった。みんな僕たちに同情してくれていた。大通りに出る信号で止まったときに、もう一度振り返った。おじさんたちは俯いてかたまりから離れ始め、隣のおばさんは両手で手拭いをつかんでまだ立って見ていた。

ありがとうと言うより、ごめんなさいが言いたくなった。みんなに悲しい思いをさせてしまったから。

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