【前回の記事を読む】「みなさんは雨がお好きですか?」親子の愛情にも似た雨の話
第一章 目に見えないもの
追い風童子
伊勢神宮の外宮の参道に、奈良の「せんとくん」で有名になった藪内佐斗司さんの作品「柄杓童子」があります。
伊勢では江戸時代におかげ参りが流行しましたが、その際にお参りに来ることができないご主人の代わりに参拝に来たというおかげ犬がモデルになっています。
また、おかげ参りの道中に柄杓を持っていると、参道を行く先々で食料や宿などを助けてもらえたといいます。この時代には、伊勢御おん師しという伊勢神宮の下級神職が今の旅行代理店のように伊勢参拝を勧誘して全国を回ったと言われています。
今回はこの「柄杓童子」の作者である藪内佐斗司さんとのエピソードをご紹介します。
二十五年ほど前のことですが、ギャラリーの仕事をしていた時に、お客様の歯科医院の奥様から、「藪内さんの『追い風童子』が好きなので、患者さんに送るポストカードにできないかしら?」と相談されました。
どういう経緯で藪内さんと知り合いになったかは定かではないのですが、藪内さんにお電話してお願いしたら、「まあいいよ」と快諾してもらったことを記憶しています。
「追い風童子」は藪内さんの一九九三年の作品で、ポストカードには追い風童子が小さな唇をすぼめて、追い風をそっと送ってくれている姿が収められています。依頼主の奥様に一枚だけ分けてもらったので、今でもわが家の玄関には「追い風童子」のポストカードが二十五年の時を経て飾られています。
いつも出かける時には、愛らしい「追い風童子」に追い風を送られている気分です。カナムーンも、みなさんの背中からそっと追い風を送り続けたいと思います。