生活保護受給者への世間のまなざしが厳しいものであることは、真田も昔から知っていた。受給者が職探しを怠ってパチンコ店に居座ったり、酒におぼれて事故を起こしたりする様子が報道されるたびに、自分自身も彼らに対して疑念を抱いたこともあったからだ。しかし悠希の場合は、さらにはかつての莉子の家庭や多くの人々はそうではない。

不当に差別され、誹謗中傷の対象になっている。その世界に悠希が知らぬ間に立たされていたことに、真田は父親としての虚しさと憤りを全身に溢れさせた。

「最後に莉子さんとした電話が、それだったということですか」

「いえ、違います、最後の電話はその二日後です」

「そのときあの子は、なんと言っていましたか」

真田の問いに、莉子が息を呑むのが電話越しからでもわかった。そして段々と聞こえてくる呼吸音が荒くなり、ごめんなさい掛け直させてください、という早口の涙声によって通話は終わってしまった。

すきま風が通る部屋に突然差し込んだ静寂に耐え切れなくなった真田は、それをごまかすためにテレビのスイッチを入れた。するとニュース番組の天気予報が映し出され、明日は雪が降る可能性があることを彼は知った。区役所への電話というのは繋がりにくいイメージがあったが、生活保護課にいたっては想像よりもはるかに速く人の声が現れた。

「もしもし、聞こえますか?」

衝動的に掛けてしまった電話に、真田は何を発していいのかわからなくなり、数秒の無言を貫いた。それに対して電話の相手である男性職員が、訝しがるように問いかけた。高圧的だが何も考えていないような、気味の悪さと意地の悪さを感じさせるそれを聞いた瞬間、真田の感情の渦は蒼い炎を燃やしながら逆回転し始めた。

「真田悠希からの保護相談を断ったのは誰だったんだ」

「え?」

「あの子はあの電話の直後に死んだんだよ!」

真田がそう叫ぶと、今度は電話の向こうがあっけに取られたように押し黙った。それが余計に真田の神経を逆撫でた。自分でも身体が不自然に震えているのがわかった。

「何が起こったかはわかりかねますが、我々は然るべき対応をするしかありません」

不正受給者が後を絶たないのが実情なので。

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