――六年前。効果的にまゆ実を追い詰めるにはどうしたらよいか。メンタルをズタズタにするにはどうすればよいか。わたしは毎日そればかり考えていた。だが、いくら考えても妙案が浮かばないので、母が使っていたノートパソコンを使って調べることにした。
検索画面に思いつくままにキーワードを入れ、調べに調べまくり、復讐方法を考えることに。姉の願望を叶えることについては、すぐに決めた。整形メイク。だが、当時小学生のわたしはメイクに興味はなく、やり方がさっぱりわからなかった。百円ショップにコスメのコーナーがあることは知っていたが、いつも素通りしていた。
動画サイトで、初めてのメイク、なる初心者向けの動画を見ると、続けて整形メイクの動画をいくつかピックアップし、食い入るように視聴した。次第に興味が湧き、自分でもやりたくなった。けれど、高価な消耗品である化粧品をどのようにして入手するかという問題に直面した。
「アルバイトしたいんだけど」
父に相談したところ、
「なんで?」
と聞かれた。
まゆ実に復讐したいから、なんて言えるはずがない。わたしは子供なりに知恵を絞り、
「今からメイクの勉強をしてキレイな女性になりたいから。お母さんみたいに」
と言った。お母さん、という部分を強調して。母が亡くなって間もない頃であったが、そんなふうに情に訴えれば、父はきっと認めてくれるはずだと考えていた。
「アルバイトはダメだ。児童虐待してると思われるだろ。子役とかクリエイティブ関係の仕事を除いて、中学生までは原則働いてはいけないことになってるんだよ」
法律で決められているなら仕方がないか……わたしは諦めかけたとき、
「化粧品くらい、俺が買ってやる」
と父が男気を見せた。
「本当に?」
「ああ。ただし、家事は基本的に千春がやるんだぞ。掃除、洗濯、炊事、すべてだ」
むしろこっちのほうが児童虐待のような気がしたが、わたしはその条件を受け入れた。家事は得意ではないが嫌いではない。お安い御用だ。約束通り、父は化粧品を買ってくれた。わたしは亡き母のメイク道具を拝借しては整形メイクの修行に励む日々を送り、技術を習得していった。
次に、まゆ実を効果的に追い込む方法。これも良いアイデアが浮かばず、ネットにすがるしかなかった。いろいろとリサーチしたものの中に、ドッペルゲンガーにまつわる伝説があった。
三人めに会うと死ぬ。これだ! わたしは決めた。子供じみた復讐方法だと笑う人がいるかもしれない。笑いたい奴は笑えばいい。わたしはそう思う一方で、亡き母の血を受け継いでいるわたしだから決断するに至った復讐方法ではないか、とも思った。自作自演。ドッペルゲンガーにまつわる伝説の真相は、ひょっとしたらこれではないか。三人めに会うと死ぬ=自作自演。これしかない!