『グレー』
私はいい子なんかじゃない。
妹思いとか頑張り屋だとかお手伝いがよくできるとか、大人たちは言うけれどなんにもわかってない。確かに私はお手伝いをよくする。洗濯物を綺麗に畳んだり、それを所定の場所にしまったりするのはとても楽しい。豆腐を均等なさいの目に切ったり、お皿を洗って同じ形どうし並べていくことも得意だ。ママに頼まれてしているのではなくて、私がしたいからしている。
ママは妹のことで忙しくて助かっているみたいなので、よかったな、と思う。
ただそれだけのこと。
今日は折り紙で多面体を作る。ママと妹は月に一度の検診に出かけていた。パパは釣りに出かけた。一緒にいくか? と聞かれたが丁寧に断った。パパは優しい。
土曜の午前、静かな台所のテーブルに折り紙を広げる。先ず、配色を決めよう。日本の色と書かれたセロハンのパッケージを眺める。うすさくら、うすべに、ぼたん、あかねいろ。やまぶき、わかば、ふかみどり。
「テンショク?」
天色と書かれた色を手に取る。ただの水色に見えるけど……。それぞれの青に名前があることを知ると青っぽいものだけを並べてみた。微妙にほんのりと違う色たち。
何枚か手に取り一枚ずつ丁寧に折っていく。角と角を合わせ、すーっと指を滑らせる。少しでもずれると歪みが生じるので、始めが肝心なのだ。十二枚をすべて折り終え、今度は組み立てていく。二枚組み合わせ、三枚目からが難しい。けれどそれよりもワクワクする。だんだん形になっていく感じがとても好き。
その時電話が鳴った。かなちゃんからだった。
十五分後に会う約束をして八面体を仕上げた。手のひらで優しく包み、感触を確かめ眺めた。
うん、完璧。よくできた。
お財布をミニリュックに入れながら時計を見ると、もう五分経っていた。「急がなきゃ」口に出して言いながらスニーカーに足を突っ込む。台所のテーブルの上には美しい天色の多面体がひっそりと佇んでいた。お昼前には戻るつもりでいた。
かなちゃんはクラスの友達。学校でうまくやっていくためには友達は必要だ。本当はもう一つ作りたかったけれど仕方ない。
待ち合わせ場所までの道にチューリップが咲いていた。行儀よく並んで風に揺れている。私はこの春で五年生になった。女子は怖い。クラスの中で自然発生する序列は四年生の後半あたりから皆が意識し始めていた。私たちは多分中の上あたり。上の女子たちとも気楽に話せるあたりが安定を約束しているように思える。
私たちのグループは六人で今日は三人集まった。フードコートでアイスを食べながらの話題は男子のことだったり、推しのことだったりボカロPのことだったりコスメのことだったり、どれも私にとってどうでもいいことだった。でもそんなことは言わない。大体のことはSNSやネットで検索して調べておけば話題に遅れることはない。
かなちゃんは太ることを気にしてペットボトルの緑茶を飲んでいた。確かに最近ふっくらしてきた。