四 密漁捕鯨船とお母ちゃん、お兄ちゃんの死
「あんなに強いお父ちゃんが負けるなんて、デビルは本当に恐ろしい」
「別の海で暮らそうか、わたしは家族が大事だ」
「そうだ。あんな恐ろしい化け物がいる海でもう暮らしていられない」
お父ちゃんの死を知ったオトナのマッコウクジラ達は口々に言った。
しかしお兄ちゃんは言った。
「僕はデビルをやっつけて、お父ちゃんの仇を討ちます」
それを聞いたほかのマッコウクジラ達は口々に言った。
「お兄ちゃん、気持ちはわかるけど、そんな無茶をするものじゃない」
「そうだとも。デビルと戦ったってかなうはずがない。お父ちゃんだって負けたんだから」
けれども、お兄ちゃんの決心は変わらなかった。
「みなさんが止めてくださる気持ちはよくわかります。でも僕はどうしてもお父ちゃんの仇を討ちたいんです。このままではお父ちゃんがかわいそうです。僕ひとりで戦います。どうか心配しないでください」
お兄ちゃんは毅然とした態度でそう言った。
お兄ちゃんの勇気に力づけられてお母ちゃんも言った。
「お兄ちゃんだけが戦うのじゃないわ。わたしもいっしょに戦うわ」
お母ちゃんがそう言うとハナコもつられて言った。
「わたしもいっしょに戦うわ。お父ちゃんの仇を討つの」
けれどもお母ちゃんとお兄ちゃんは優しくハナコをたしなめた。
「ハナコはまだ小さいわ。お母ちゃんとお兄ちゃんが戦うからハナコは長老といっしょに安全な場所で見ていなさい」
「そうとも。大丈夫だよ、ハナコ。お母ちゃんとお兄ちゃんが力を合わせて戦えばきっと勝つから」
「長老、ハナコをよろしくお願いします」
「うむ。わしは何の力にもなれんがハナコのことは引き受けた。存分に戦うがいい」
こうしてお母ちゃんとお兄ちゃんはお父ちゃんの仇を討つためにデビルと戦うことになった。