もし、人手不足により早急な機械化が必要なほど供給不足の状態であれば、市場では逆にインフレが起きていてもおかしくありません。しかし実際は、人口減少による需要不足によって、日本経済は世界に誇るべき供給能力を、現在、維持できなくなりつつあるのです。

その一番良い例といえるのが、二〇二〇年の新型コロナウイルス感染症が流行した際に起きました。皆さんも記憶に新しいと思いますが、その頃の日本は、新型コロナウイルスの影響で一時的にマスク不足に陥りましたが、民間の努力のかいもあり、ものの二、三カ月で国民に十分な量のマスクが行き渡るようになりました。つまり、目の前に需要さえあれば、いつでもそれを供給できるだけの力が、まだ日本には残されているのです。

それでは、この需要不足の原因は一体どこから来るのでしょうか? それが、少子高齢化によるお客さんの減少、つまり総需要が毎年減少し続けている事から起こってくる事なのです。この少子化による需要の減少という話は、現在やっと少しずつですが、テレビやネット、国会などで取り上げられるようになりました。しかし、その深刻度については、多くの経済学者やアナリストからはまだまだその実感が足りていないように感じます。

中には、安倍晋三政権時の上辺だけの好景気を信じて、少子化は景気とは全く関係なく、反対に日本経済にとって素晴らしい事なのだと信じている有名な経済学者や政治家までいる始末です。しかし、私のような現場で実際のお客さんと接している企業の経営者からすれば、もうすでに日本経済はかなり深刻な状態に陥りかけています。

これは私が実際に経験した事ですが、二〇一五年から二〇一八年の比較的景気が良いとされていた時期、私は苦しくなりつつある自社の経営環境を見直すため、ある立地の良い不動産を手放す事にしました。すると、その不動産の噂を聞き付けた今までに面識のなかった複数の不動産業者から、毎日その物件についての問い合わせがあり、いろいろな不動産業者と会うたびに不動産価格が吊り上がっていったのです。

しかし、その当時の私の会社は、世間の景気の良さとは全く逆の状態で、毎年毎年、会社の売上が下がり続け、いつも会社の会議の場は暗い雰囲気に包まれ、とても取引銀行がいうような景気の良さを実感できるような状態ではありませんでした。しかし、その時の不動産業者の反応を見て、私は初めて世間では本当に景気が良いのだという事を実感したのです。

しかし、よくよく考えてみると実際の商売が儲かっていないにもかかわらず、リニアモーターカーや五輪に付随する建設や、日銀の金あまり政策のため、首都圏近郊の不動産価格だけが吊り上がっている状況が、果たして本当に日本経済にとって良い事なのか? 景気が良いとされていた日本も、実は実体経済のほうはボロボロなのではないのか? と考え始めたのです。