第三のオンナ、

千春

わたしなら、なぜ自殺にまで至ったのか、その原因や背景を知りたいと思う。だから、まゆ実なる女の子を調べることにした。

城戸まゆ実。クラス委員をしている。父親は医師、母親は中学校のPTA会長。いわゆる、いいとこのお嬢様のようだった。彼女が姉をいじめていたという証拠はないが、わたしには根拠のない自信があった。

探偵さながらにまゆ実を尾行していたときのことだ。下校時、まゆ実とつるんで歩いていた女友達との会話から、こんな声が漏れ聞こえてきた。

「伊藤美智留ってなんか気持ち悪かったと思わない?」

「ていうか、いつもわたしたちのほうを見てたよね」

「なんでかな」

「グループに入りたかったんじゃない?」

「ダメダメ、あんな地味で暗い子」

「入る資格なし」

「だよね~」

聞いた瞬間、わたしはいいようもない怒りが込み上げてきた。その後もしばらく尾行を続けていたところ、トンデモない出来事を目の当たりにした。

まゆ実が友人たちと別れた後のことだ。まゆ実はたった一人で、立入禁止となっている廃工場に忍び込んでいった。工場内は明るい日の光が差している時間帯でも薄暗く、なんとも言えない不気味さが漂っている。こんなところに入って何をするのだろう。わたしはさっぱり見当もつかなかった。

ところが、まゆ実が通学バッグからスプレー缶を取り出して壁に落書きを始めたとき、わたしは「えっ?」と眉をひそめた。何かのうっぷんを晴らすかのように、まゆ実は存分に書き殴っていく。

【邪魔】

【ウザイ】

【キモイ】

そして……トドメを刺すかのように、最後に書いた文字は異様に大きかった。

【死ね】

奇しくも落書きのほとんどが、大学ノートに書かれていたものと同じだった。まゆ実は書き終えると、落書き全体がよく見える位置に立ち、げらげらと下品に笑いだした。隠れて見ていたわたしには、その落書きが誰を指しているのかは容易に想像できた。姉美智留だ。

これでようやくわかった。まゆ実とその友達が姉を自殺に追い込んだ犯人で、主犯格はまゆ実。間違いない!

まゆ実に目を向けると、何がそんなにおかしいのか、なおも下品に笑っていた。姉はすでにこの世にいないというのに………天国でも死ねというのか。どう復讐してやろう。この六年間、わたしはそればかり考えて生きてきた。そして、考えに考えて出した結論は遺言とも言うべき大学ノートに綴られた姉の願望をわたしが叶えつつ、まゆ実を追い込むことだった。