進化と退化
酒の酒たる所以はエチルアルコールにあることは誰でもご存じでしょう。
本来人体にとって有害なアルコールを体内に取り込むのですから、人体はこれを無害なものにしなければならない。幸いなことに、体内にはアルコールを分解する酵素と、さらにアルコールが分解して生じるアセトアルデヒドを、酢酸を経て最終的に水と炭酸ガスにまで分解する酵素が備わっているために、人はアルコールを平気で飲むことができるというわけです。
ヒトを含む類人猿の中で、この酵素を持っているのは、ヒトの他にはチンパンジーとゴリラだけで、オランウータンになるともはやこの酵素は体内にないということですから、オランウータンにとってアルコールは猛毒。間違っても酒は一滴も飲んではならぬということになります。ではなぜそのようなことになったのか?
長い進化の歴史の中で、オランウータン以外の三種の類人猿は、木から降りて地上で生活することを選択したサル。地上に落ちて熟れた果実まで食料にした。
そこでこんな空想をしてみました。
木から降りて地上で生活をすることにしたサルは、その日も腹を空かせていた。何かうまいものがないだろうかと目を凝らして歩き回るサルの鼻に、今まで嗅いだこともないふくよかな芳香が漂ってくるではないか。どうやら果実のようだがつぶれていて元の形とはだいぶ変わっている。どうしよう。サルは一瞬迷ったが、空腹には勝てず口に運んだ。
するとどうだ。うまいばかりでなく、何ともいわれぬ心地よい気持ちになるではないか。熟れてアルコール発酵が進んだ果実こそ、文字通り禁断の果実であったというわけです。う~む、禁断の果実を最初に拾って口にしたご先祖様に感謝したいものですな。