圭はアメリカ出張から戻り、その日のうちにいつも通っているスポーツジムに向かう。これは海外出張をして日本に帰ってきた時のルーティンだ。まずジムにあるランニングマシンの上で軽く走り出し、三十分ほど汗を流した後、体幹トレーニングを三十分ほどする。無駄に筋肉を付けるだけの筋トレはしない。そこに千佳が笑顔でやってくる。
「圭、お帰りなさい。アメリカから帰ってきて、ここのジムに来るだろうと思って見にきてみたのよ。トレーニングが終わるまでここで待っているわ」
圭は上に着ていたシャツを脱ぎ、上半身裸になって足から鉄棒に逆さにぶら下がり、腹筋のトレーニングを黙々と始める。サーフィンには体幹を鍛えておくことが大切で、歯を食いしばりながら腹筋を鍛える。千佳はそれを見て、圭の腹筋が「ギシギシ」と唸り声をあげているようにも感じる。
圭はトレーニングの最後のメニューを終え、鉄棒から下りてその場に立ち、大きく深呼吸をして呼吸を整える。海外出張から戻ってきてすぐのトレーニングは、いつもの三倍は疲れる。千佳に「外で待っていろ」と言い、そのままシャワー室に入っていく。
圭は外で待っている千佳に声をかけ、二人はそのまま歩いてマンションに帰っていく。二人は玄関を開けて部屋の中に入っていき、キッチンに入った圭が言う。
「これからコーヒーを沸かすから、ちょっとそこの椅子に座って待っていろよ」
すると、千佳がテーブルの上に両手を広げて何かをおねだりする。
「圭、まず私に何か渡すものを忘れていない?」
圭は何かを思い出したように、スーツケースの中からブレスレットを持ってきて、千佳の広げた両手の中に落とす。
「千佳が欲しがっていた、ターコイズブルーのブレスレットだよ」
圭が持ってきたそのブレスレットは、千佳の広げた両手の中で神秘的な青い色で輝いている。千佳は立ち上がって圭の首に手を回し、お礼を言う。
「ありがとう。今日はコーヒーはいらない。もう帰るわ」
千佳はちゃっかりとターコイズのブレスレットを手に入れ、嬉しそうに帰っていく。千佳が帰った後、圭は倒れ込むようにしてベッドにもぐり込み、そのまま朝まで目を覚ますことなく熟睡していた。