カイゼルは話を続けた。
「大陸島に在る太陽の国で、記憶の種を入れられた者は、数字の0の焼印を刻まれ零族となるんだ。ほとんどの零族は他の国々へ奴隷として売られ主人を持つ。俺達零族は、主人が居ないと行動が出来なく、逃げられもしないんだ。仮に逃げられたとしても零族狩りに捕らえられ、太陽の国へと送り返されるんだ」
「なんで零族になったの?」
ラムカは、ふいに頭に出た疑問が口から出ていた。
大きな立派な角を持っているのにもかかわらず、オドオドした態度で山羊のトラゴスが答えた。
「俺達は、人間だった頃の記憶がなくて、どうやって零族になったのか覚えていないんだ。でも、ある時、ある人が教えてくれたんだ。俺達は人間なんだと……」
「トラゴス、その話は……」
フランゴが止めると、トラゴスが「やべっ」と舌を出した。
ラムカは、なんで止めたのか気になったが、それよりも自分が何故、魚船に乗っているのかが分からず聞くと、カイゼルが答えた。
「俺達は太陽の国を脱走して、魚汽車に隠れ乗りこの付近までやって来たんだが、乗務員にバレて降ろされちまって、その後ある島で魚船と言う魚に船の記憶を入れた乗り物を売っている店から、この魚船を盗み奪ったんだ。だがこいつ、俺らが零族だからか、ただ操縦が下手だったからか、言う事をまるで聞かなくてな、困っているところに、雲海でエイの背中にもたれたあんたが漂っているのを俺が見付け、三人で助けたんだ」
「いや。あの子は俺が見付けたんだ!」
山羊のトラゴスは、カイゼルに迫っていたが、鶏のフランゴは、ただ黙ってマストに寄りかかりながら、あきれ顔を見せた。
ラムカは聞いているうちに、いつの間にか攻撃態勢を解いていた。
カイゼルは、思い出したかのようにラムカに聞いた。
「そう言えば、何故エイの背中に乗っていたんだい?」
ラムカは何故、自分がエイの背中に乗っていたのかは分からなかったが、カーに襲われた忌まわしい出来事を思い出し、トミが無事かどうかが心配になった。三人にこれまでの経緯を話し、島の名前を伝え、島まで連れて行ってくれないかと頼んだ。
しかし三人は、ラムカの言った島の名前を知らなかった。ただ、ここに来るまでにカーに襲われた小さな島々は見ていたが、今はその島が何処にあるのかも、自分達が今何処に居るのかも、よく分かっていなかった。