義母の心残り

義母は癌と闘っていた。看護師さんから「もう余り時間がないので付き添いを」と言われた。義父は、「病院の泊は体がもたない」と言う。私で良ければとその夜から付き添った。

痛み止めのモルヒネの点滴が始まった。色々と幻覚が現れ「虫が一杯いる、助けて」「事務所の掃除に行ってくる」など、ベッドに戻す体が痩せて壊れそうで切なかった。

(あんなに闘った日があったのに)

亡くなる数日前、とても穏やかで意識が鮮明な日があった。

私に「おじいちゃん、きっとすぐ再婚するよ」。私はあり得ると思いながら、「そんな事ないよ、心配しないで」と背中をさする事しかできなかった。

追伸

義母の通夜の最中、義父の数珠が突然切れた。珠は四方八方に音をたてて飛んだ。

そして、義母の新盆、仏壇の部屋の灯りが消えたり、ついたり。

義父と新しい義母以外、「おばあちゃん相当怒っとるな」目と目で暗黙の会話。 

おくりびと

義母の納棺は素晴らしかった。芸術と言っても過言ではない。

NHKの「プロフェッショナル」出演の納棺師の方は若い男性でした。お世話になった納棺師の方は年配の方でしたが、とても所作が似ていました。

(映画「おくりびと」の技術指導をされた方です)

湯灌、死化粧、仏衣の着替え、ひとつも肌を見せることなく、浴衣からの着替え。死化粧の時、「何か、ご要望がありますか」と声をかけられた。

娘が「義母が『〇ちゃんの口紅いい色だね、もう少し若ければつけてみたい』と言っていたからその口紅をさしてあげたい」と言うと「それは喜ばれますね」と。娘は必死に紅をさした。

マジックを見ているように、納棺が終わった。義母は喜んでくれたと思いたい。最後に着ることを楽しみにしていただろう、仕付け糸がついたままの着物をお棺にかけた。

追伸

私の母の死化粧は、襖を閉めて密室で始まった。「終わりました」とそそくさと帰って行った。母を確認する間も与えず、逃げるように帰って行った。

襖を開けてご対面。そこに父が入ってきた。父はしばらく母を見ていたが「これは母ではない、誰だ」と言った。母はショートカットだった。そのショートカットをきれいに七三分けされていたので、昭和の男性演歌歌手になっていた。