猶予はありません。後陣を断たれ、まさに背水の陣です。娘は事務所の周りを時間があれば歩き、空家を見つければそのご近所の方に聞き歩いたのです。候補が見つかれば家族三人ですぐに出かけ、地図、間取り等を不動産屋の案内で説明をしていただき、病室の設置の条件に合うか等々調べて歩きました。

介護用ギャッチアップベッドを入れ、その周りに人工呼吸器及びそれに伴う諸々の器具を置くとなると、広さ、採光などなかなか難しいのです。気持ちばかりが焦ります。

ちょうどその時、子供たちの事務所のすぐ上の階が空いたという話を耳にしたのです。

実は私たち夫婦は子供達の事務所とは車で一時間弱離れたところに住んでいたのですが、この場所へは今まで病院でお世話になっていたALS専門医の山谷先生が、地理的に往診していただけないということなのです。家族の焦りが頂点に達したところで見つけたこの物件で、全てが動き出しました。

夫の療養室は、とにかくみんなの目の行き届く所に置こうと言うことになり、子供たちの事務所の一室を療養室にしようということに決まりました。やっとこれで不安はいっぱいではあるけれども、私としては肩の荷が下りたという感じがします。

一方、私の落ち着き先は、夫の療養室と決めたすぐ真上の階とし、何か用事があっても数分のうちに駆けつけることができる位置にある処にしようと言うことになりました。

早速病院におけるナースコールに相当する報知器を設定して見ますと、療養室で押したコールが三階の私の部屋にきちんと届き、応答することができることも確かめられました。このコールを聞いて私が療養室にまで行く時間は一、二分というところでしょうか。私の部屋は三階、夫の療養室は二階、すぐ真下です。エレベーターもまず混むことはありません。

こんなにすべてが好都合に怖いほど進みました。あちらこちらのみなさまの陰ながらの応援に心から感謝いたしました。