~新しい記憶~
まひると、凛に起こった事故の記憶は、まひるには全く無かった。まひるは叔母夫婦に引き取られる生活が始まった。まひるは叔母夫婦をお母さん、お父さんと呼んで育った。本当の母や父の顔は覚えているが、何故母と父が死んだのかは、叔母夫婦は、詳しく教えてくれなかった。ただ事故で亡くなったとだけ知らされていた。
時折、まひるは、頭が割れそうに病む事があったが、事故の後遺症と思っていた。叔母夫婦も、その様に言うので、そう思い込んでいた。
まひるが中学に入ってからは、何故か医者を目指す様になった。理由もなく、ただ何かに導かれる様に決めていた。高校受験の勉強も朝方までしていたが、時折眠気が襲ってきた時に限り頭痛が起きた。叔母夫婦は、まひるにとても良くしてくれたので、まひるも本当の親の様に思っていた。
医学部受験の時も、眠気がさすと頭痛がしていた。受験当日も試験前に頭痛が起きたが、何故かペンはスラスラと走り、試験は無事に終了した。今までも大切な試験になると、頭痛が起きるがスラスラと問題を解くことができた。無事、医学部に入学する事が出来、まひるのキャンパスライフは充実していた。
まひるは、大学でボランティアサークルに入っていた。自分の身に置き換えたのか、養護施設などによく仲間と足を運んでいた。
そこで、知り合ったのが学生だった田中真一だった。お互い話も合い、養護施設へも一緒に行く事も多かった。まひるは、段々真一に魅かれる様になっていった。サークル内でも知らない人が居ない位のベストカップルと言われていた。
ある日、真一から別れ話が切り出された。同じ学部の女性と付き合っていると、まひるは聞かされた。まひるは胸が締め付けられる思いに駆られて息が出来なかった。何日間か、まひるは真一との別れを引きずっていたが、ある日又、久々に酷い頭痛に襲われ気がつくとベッドで眠っていた。
目が覚めると嘘の様に胸のつかえが消えて無くなっていた。
その1ヶ月後、まひるは自分が妊娠している事に気がついた。まひるは、迷いもせず産む事を決意し、真一にはこの事は話さないと心に決めた。叔母夫婦に相談したが、中々良い返事を貰うことは出来なかった。当然の事だ。学生の身分で子供を産む事を許す親など、居るわけがなかった。
相談して数日後、まひるが何時もの頭痛に悩まされていた時、叔母夫婦から思いも寄らない回答が戻ってきた。まひるが子供を産む決心をした朝だった。