「君だれ?」
「僕のこと知らないの?」
「うん」
「ほら、ごらんよ。鳥族の子どもには、みんな僕みたいな鳥族の精がついているんだよ。それより早く飛べよ」
「飛べって……、まさかここから?」
「あたりまえだろ。おまえ、鳥族の人間だぞ。もしかして、怖いのか?」
「怖いに決まってるだろ。こんなところから飛んでもし失敗したら」
あはははははは……妖精はさもおかしそうに大声で笑うと言った。
「何言ってるんだ。何も考えないで思いきり飛べ!」
「何も考えないなんて無理だよ」
「ふん! もし落ちたら……。もし失敗したら……。もし、もし、いつもそうやって考えるばかりだろ。だからおまえは何もできないままなんだ」
「ほら、飛べ」
「うわぁー」
不意に背中を押され。としおは崖から真っ逆さまに落ちた。ふわっ。途中で体が軽くなるのがわかった。
「いったいどうなってるんだ。僕、本当に鳥族なの?」
「おーい、としお。何もたもたやってんだ。もっとスピード上げろよ」
急にまさとが近づいてきた。としおは速く飛ぼうと足をばたつかせた。もっと前へ、速く前へ。気持ちはどんどん前へ行こうとするのだが、体はじれったいほどゆっくりとしか進まない。
それどころか、だんだん下の方へと落ちてゆくばかりだ。
「あははは……。やっぱりおまえはダメなドジオだな」
まさとがはるか上から叫ぶと、みんなの笑い声がそこら中に響きわたった。下はゴツゴツとした岩場。としおは地面すれすれに、岩をよけながら飛ぶのが精いっぱいだった。
「もっと速く飛べ!」
としおは大きな岩に何度もぶつかりそうになりながら必死に叫んだ。なのにスピードはいっこうに上がらない。
(なんてぶざまな格好……。とび箱だってとべないのに、空なんて飛べるはずがないんだ)
涙がほおを伝ってポタポタと落ちた。