第1章

―1年後― 四月

同居人の帰宅で安心したパセリは食後にゆっくりと毛繕いをし、それが済むとクッションを枕にしてさっさと寝てしまった。俺はラジオをBGMにして本を読む。

「肉食地区で、飲食店従業員の女性が男に殺害されました」

本に集中していて大して聞いていなかったが、ニュースの一部分だけスッと耳に入ってきた。ああ、またか……と俺は思う。肉食地区で凶悪犯罪が多い……という話は本当だった。

三地区に分けられる前は犯罪も全国で均等に起きていたが、これほど明確に一つの地区に限定されてしまうとは。母親から聞かされた中間地区の「代表政府」の行っている「食生活と犯罪率の関係」とかいう実験は、とっくに結果が出ているんじゃないだろうか? 三地区別の犯罪率に加え俺の住んでいた惑星でのデータもあるわけだから。

「殺された女性の名前は漢字か。今時、古風だな。……姓名判断で調べてみるか」

学生時代に占い好きの女子がいたな……と思い出す。だがその女子生徒の名前は忘れてしまった。

「ウルサイわ。さっきから何やっとるんや、ワレ!」

キーボードの音に反応し、パセリがぶっきらぼうにボヤく。

「え。あー……、ごめん。寝られない?」

振り向いて、パセリの表情をチェックする。パセリは、ふんっと鼻を鳴らした……かのような態度で丸くなった。しっぽまで巻き込んで真ん丸である。これだけ巻けば多少の雑音は気にならないだろう……。

名前占いというのは他の占い同様、信じる信じないは人それぞれなのだが、犯罪に関わった名前を検索すると意外と高い確率で運の悪い名前と判定されるため、つい興味がわいてしまう。