「こんなこと言っていいのかわからないけれど、実を言うと、青木さんは女の人が好きな人なのかなって思ってたんです」

彼の口から飛び出た突拍子もない核心に、動揺しなかったと言ったら嘘になる。私を取り巻く関係の中のごくわずかな人口にしか知らせていない事柄を、出会って数ヶ月の人間に言い当てられ、ましてやその相手は、私との恋愛関係を希望しているのだから。彼の前で過去を持ち出すことはできないと思った。

「どうしてですか?」

「あ、ぼくの友人にいるんです、同性が恋愛対象な人がね」だから偏見とかそういうのは全くないです。ただなんとなく、そんな気がしただけで。

田所さんの弁解と表情の綻びを、私は黙って見つめた。彼の中に悪意や差別感情が一切ないことはわかっていた。新しい関係と共に生まれた秘密が、ただ心苦しかったのだ。そして自分の彼への評価の甘さを心から恥じた。

照れ笑いを繰り返す田所さんの横顔は絵に描いたような幸福だったが、彼の部位の中で私が愛して止まないあの唇、それが今どんな姿をしているのかが、この位置からではわからなかった。

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