第三のオンナ、
まゆ実
「うわっ」
何者かに背中をポンと押され、わたしは前のめりになった。
「誰?」
ムッとして振り返ると、千春が立っていた。
「死ぬかと思った?」
してやったりといった感じで、千春はいたずらっぽく目を細めた。
その夜、わたしは定例の女子会を開き、いきつけの居酒屋でサークル仲間と楽しんでいたが、千春は
「誘ってもらって嬉しいんですけど、予定が入っているんです」
と言って参加しなかった。なのに、門扉の前でまさかこんな子供じみたことをされるとは……。
「死ぬわけないでしょ。これくらいのことで」
一応、先輩ということで、わたしは怒ることなく、余裕で笑ってみせた。
「ですよね」
千春はニコッとした。だけど、心なしか目は笑っていないように見える。わたしはふと思った。どうして自宅を知っているのだろう、と。
「予定があるんじゃなかったっけ?」
「あったんですけど、ドタキャンになったんです」
「それは災難だったわね。じゃあ、女子会にくればよかったじゃない」
「自分、人が多く集まるところでわいわいやるのが苦手で……」
この子、自分って言うんだ……。わたしも昔キャラ作りのために自分と言っていた時期があった。だが、真似する子が出てきたので、ばかばかしくなってやめた。
「矛盾してない?」
「矛盾?」
「テニスサークルよ。人がたくさん集まってるじゃない。それに、みんなでわいわい楽しみながらやってるし」
「スポーツは別です。夢中になっている間は、自分、ほとんどしゃべらないので」
そういうこと。
「ていうか、ここで何してるの?」
「待っていました。まゆ実先輩を」
「なんで?」
「話したかったんです」
わたしは腕時計を見た。まもなく午前零時。
「こんな時間に?」
この子天然? いや、常識がないのかもしれない。
「自分、こう見えて結構忙しいので、ゆっくりお話しできるのは夜中しかないんです」
意味がわからない。こう見えて、って何よ。
「だったら女子会にきなさいよ。来週またやるから」
「でも……」
「人数も少なめにする」
「うーん」
あー、じれったい。
「完全個室のお店にする。それなら大丈夫でしょ」
千春は返事をしない。しばし沈黙が流れる。わたしはそれを嫌い
「じゃ、そういうことで」
と門扉のアームに手をかけたとき、
「あ」と千春が声を上げた。
「何?」