第三のオンナ、
まゆ実
一方、女の子はとても落ち着いていた。
マスクの上からでもなんとなく想像できるすーっと通った鼻筋に、涼しげな切れ長の目元。髪の長さはわたしより短めのミディアムだが、巻き髪で髪色は淡いグラデーションピンクと、ヘアスタイルはほぼ同じ。しかし、衣服は全くの正反対。フェミニンを意識したコーデのわたしとは対照的に女の子はカジュアル。下はデニムのショートパンツ、上はTシャツに薄手のパーカーを羽織っただけのラフな服装だ。
「わたしも最初、驚いちゃった」
亜矢がにやにやしながら話す。
「昨日はガーデンプレイス、おとといヒカリエにいたのは彼女。だよね?」
女の子が小さく頷いた。わたしは胸を撫で下ろす。
「入りたいんだよね? まゆ実と同じサークルに」
もう一度、女の子は首を縦に振った。先程より振り幅が大きい。亜矢が興奮気味に話を続ける。
「更衣室の前をぐるぐると回っている子がいたので声をかけたらこの顔でしょ? びっくりしちゃって。それで話を聞いたら彼女も自分と瓜二つの女性、つまり、まゆ実をキャンパスで偶然見かけ、会いにきたってわけ」
緊張しているのだろう。女の子は下を向いたままで、身体全体が硬直しているように見える
「自己紹介したら?」
亜矢が促すと、女の子は「えっと……」と声を震わせ、絞り出すように言った。
「い、伊藤です。以上」
一同、口を半開きにしてぽかーんとしている。彼女は微妙な空気を感じたのか、背筋をピンと伸ばし、前を見据えた。
「あ、すいません。下の名前を言うの忘れてました」
彼女は改めて姿勢を伸ばした。
「千春です。伊藤千春。以上」
その瞬間、室内は爆笑の渦に包まれた。
「以上?」
「ウケる~」
「ほかに言うことあるでしょ」
「この子面白い~」などと言って、皆、お腹を抱えて笑っている。だけど、わたしは笑えなかった。写し鏡のような人間がいるなんて。物真似タレントならまだしも少し気味が悪い。わたしはいつになく強く爪を噛んだ。