第三のオンナ、
まゆ実
わたしは店を出ると、近くの小さな公園を訪れた。亜矢にスマホを預け、写真を何枚か撮ってもらう。その中からお気に入りのものをひとつ選ぶと、写真や動画を簡単にシェアできるアプリ、スタスタグラムにアップした。次々と、いいね! がついていくと共に、「素敵」「かわいい」といった嬉しいコメントが続いていく。
「すごいね」
反応の速さとコメントの数に、亜矢が目を丸くしている。
スタスタグラムをはじめたのは三年前。初めての投稿写真は化粧ポーチで、以後、週三ペースでアップしていった。お気に入りのバッグや洋服などのファッション、化粧品や香水といった美容関連のアイテムを。これどうかしら? と友達に話しかけるように気軽な感じで。
すると、少しずつファンができ、発信する魅力にハマッた。気分は売れっ子スタスタグラマー。スタスタグラムを通じて、数えるほどだが、アパレル会社のイベント企画やパーティーに招待されたこともある。自分で言うのもなんだが、美人に生まれてよかったと思う。もちろん人前では、自分から美人だなんておくびにも出さないけれど。
人生の追い風が吹いているかも。わたしはそう思わずにはいられなかった。
「昨日、ガーデンプレイスにいませんでした?」
わたしは更衣室でテニスウェアに着替えていると、サークルの後輩ミナが不意に聞いてきた。
「またぁ?」
奥で着替えているエリが、蔑みの目で言った。
「城戸さん、どういうこと? 説明してくれる?」
おとといまで下の名前で呼んでくれていたのに、苗字に変わった。それは別に良いとして、またぁ? と言いたいのはこっちのほうである。
人生の理不尽が無防備なわたしに突き刺さるかのよう。わたしに変装した悪意のある何者かが陥れようとしているのだろうか。いい加減、本腰を入れて対策をしないといけないのかもしれない。わたしは親指の爪を噛んだ。
「いましたよね、セ・ン・パ・イ」
ニタ~とミナが目尻を下げる。
「彼氏ですかぁ? 隣りにいたイ・ケ・メ・ン」
貴輝が? ハッとして親指が口元から離れる。昨日はたしか出張で福岡にいるはずだ。
わたしに嘘をついたってこと? 一緒にいた女は誰? それが事実なら由々しきことだが……。
生真面目な貴輝に限って絶対にありえない。
「人違いよ」
かれこれこの言葉を何度言ったことだろう。
「またまた~。別に隠さなくたっていいじゃないですか」
隠してなんかいない。幼馴染の亜矢にも貴輝のことは話していない。聞かれていないから、ということもあるが。
五歳年上の貴輝はイベント会社の社員で、二年前にスタスタグラムを通じて知り合った。
コメントのやりとりをしている間は特に意識をしていなかったが、食事に誘われ、交友関係を広げるつもりで軽い気持ちで会ったとき、惹かれるものがあった。
運命かもしれない。
ベタなラブストーリーで描かれるような恋愛感情が、わたしの中で沸き起こるなんて、思ってもいなかった。先日、その話を貴輝にしたところ、彼も運命みたいなものを感じたという。共通の趣味はないけれど、会話をしているだけでほっとする。こういう関係を、相性がいいと言うのだろう。だからといって、恋人を自慢するような行為はしたくない。その証拠に、スタスタグラムには2S写真を載せていない。