その日の夕方、俊夫はロンドンに戻り、ヒースロー空港の近くのホテルにチェックインし、翌日のパリ行きの便を待つことになった。

ホテルのレストランで早めの夕食を済ませると、四角い殺風景な部屋に戻り、カーテンを引き、静寂に身を任せてベッドに横たわった。

ジムの話は成功者の更なる夢に彩られていた。それに反して俊夫の内面にあるのは永遠に果たされることのない何かを追い求める半生だった。何を果たせば自分が納得できるのか、成就といえるのかわからない。

ボートショーの会場でジムは日本人を褒め称えようとして“パペット”の踊りを踊ったのは確かだ。だが、俊夫の心に生まれた釈然としないものが何なのか、何故なのか、俊夫自身にもよく分からなかった。

そして、又、今度の訪問でも君とは周波数が合いそうだと最後に満足げにジムは言った。だが、一見合いそうだと思われる周波数が、何かこの人生の本質に関わる一点で喰い違いを感じざるを得ないのは何故であろうか。無意識のうちに生まれたこの疑問に俊夫は拘り、なかなか寝付かれなかった。その疑問はあたかも闇の中のスペクトラムのように頭の中を駆け巡り、彼がようやく眠りに()たったのは夜中の十二時過ぎだった。

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