お兄ちゃんが帰ってきた。
なのに夕食も食べず出かけてしまった。
「後で食べるから取っておいて」なんて言って。今すぐ食べてほしかったのに。
あの女のところに行くんでしょ? そう思ったけれど「早く帰ってきてね」ってかわいい妹を装う。
私は料理が得意なの。頭もいいし、美人だし。
そうだ! いいこと思いついたわ。素敵なこと。
よく研がれた刃物は細胞を傷つけずに調理できるのよ。
柔らかな綿でそっと包みバッグに入れる。
行き先の経路も調べてある。お兄ちゃんのことは誰よりも知っているの。
途中でクリームたっぷりの甘いケーキでも買っていこうかしら。四つ必要ね。
手作りのローストビーフもタッパーに詰め込んだし、大人たちは赤ワインで乾杯しよう。
私はいつの間にか微笑んでいた。
最高な気分。
なんて甲斐甲斐しい妹だろう。
微笑みは次第に歪み、口元がひきつる。
何かしら? この込み上げてくる感情。
微笑みはいつか不気味な笑い声となって、暗い夜道に溶けていった。
あれ? 私どうやって笑っていたんだっけ?
何処からか鳥の鳴き声が聞こえてくる。
美しく不気味な鳴き声だった。
厚い雲が月をすっぽりと隠し生暖かい風が吹いてくる。
夜は深い森のように闇に覆われていった。