放課になり、佑介が高山先生に頼まれた教材を職員室に届けに行くと、リディア先生が佑介の担任の高山先生に話しかけている。しかし、高山先生はリディア先生の流ちょうな英語が理解できないで、額に吹き出る汗を拭きながら必死に対応していた。ところが、横でそれを聞いた佑介が、英語で答えたのである。なんと、リディア先生と佑介は英語で会話を始めたのである。
リディア先生のライオンハートの名前に対して、「僕の名前は、ユースケ、ライオンバーレイです」なんて返しているのである。担任の高山先生は非常に驚き、佑介に、「佑介、お前、どうして英語が話せるんだ」と話しかけた。佑介は、ぽかんとしている。
「えっ、僕、英語で話してました?」と言い、リディア先生の話した内容を高山先生に伝えた。
リディア先生からお礼のキスをされ、佑介は思わず「ま、正夢だ」とつぶやいていた。リディア先生としても、高山先生が英語を話せず、生徒が話せるというので何のための英語教育か、これから誰に教えればいいのか、不安に思った。
高山先生も、リディア先生も佑介も、全員、わけの分からない驚きの状態であった。
実は、獅子谷夫婦は、結婚後十年間ほどニューヨークに住んでおり、その間に生まれた佑介は六歳まで、真理は三歳までアメリカにいたため、英語が知らぬ間に身についており、ただ、日本に戻ってからその記憶が薄れていたのである。
佑介自身、なぜ英語が話せるのか理解できないままに、帰宅すると、そのことを母に聞いた。
裕美も驚いた。まさか、幼児の際の能力が残っていたとは。突然に佑介からそのことを聞かれ、戸惑いながらも、正直に話すことにした。パパとママは、結婚してから、パパの仕事の都合で十年間ほどニューヨークにいたこと、それからは一度も行ってないので、忘れていたことを話し、写真を見せたのである。
真理は、その記憶もないし、英語も話すことはなかったが、三歳までいたのだから、能力は残っているかもしれないと思い、英会話の教室に行かせようと考えた。