山梨のどこか知らない病院へお祖父ちゃんと昭二兄ちゃん、そして千恵姉ちゃんの三人が来てくれるまで、僕たちはずっとお父さんとお母さんが寝ているベッドのそばにいた。由美はずっと泣きじゃくっていた。僕はシートベルトが当たっていた腰の骨の所と、前のシートにぶつかったおでこが少し痛かったけれど、周りの大人には何も言わなかった。
お祖父ちゃんと昭二兄ちゃんが、病院の人やおまわりさんと話している間、千恵姉ちゃんと僕たちは明かりが少ししかついていない広い待合室のベンチで待っていた。
由美はお姉ちゃんの膝にまたがって首にしがみついてずっと泣いていた。お姉ちゃんは声をかけながら由美の頭を撫で、もう片方の手で背中を優しくぽんぽんさすっていた。お姉ちゃんの目には涙が溜まっていたけど、床を見つめて真剣な顔をしていた。じっと考え込んでいるようにも見えた。
頭がぼんやりしてちゃんと考えることができなかった。朝起きたばかりの頭で考えているみたいだった。お父さんとお母さんが死んでしまったということが厚い壁の向こうの出来事のようで、千恵姉ちゃんに確かめたかったけど、お姉ちゃんの床を見つめる横顔を見ると話しかけられなかった。
実感できていないだけで、全然動かないでベッドに横になっていたお父さんとお母さんを見ていたんだから、死んじゃったことはほんとのことなんだろうとぼんやり考えていた。
朝になってから、お父さんたちは地下のうす暗い部屋に移された。お線香が立てられて、看護師さんが包帯を巻かれたお母さんの顔にお化粧した。由美はお姉ちゃんに抱かれて眠っていた。壁がコンクリートの廊下のベンチで、買ってもらったパンを食べたけどぱさぱさしていて全然味がしなかった。