第3章 情報認知
18 割り算思考〈抽象表現〉
出来事を「分解」「分類」「選択」して本質を抽出する
割り算思考とは具体的事象を分解して、物事の本質を導き出す思考方法のことです。映画やテレビ番組のようにテーマが先行するコンテンツであれば、テーマに必要な出来事をあとから用意することができます。
しかし結婚式や密着取材、企業や町のプロモーションなどのように出来事が先行するコンテンツは、内容からテーマやメッセージを導き出さなければなりません。このように具体的出来事から抽象的なテーマを導き出すには、物事の本質を見極める能力が必要です。
19 間接的な表現〈抽象表現〉
直接的ではなく間接的に伝える
具体表現の「伝えたい情報」をそのままズバリ見せる直接的な表現方法に対して、抽象表現は情報を間接的に伝える表現方法です。間接的に表現することで、余白が生まれ視聴者の想像力を喚起させやすくなります。私はこの間接的な表現方法を「婉曲(えんきょく)表現」「象徴表現」「比喩表現」の3つに分類しています。
●婉曲表現
婉曲表現とは、露骨な見せ方は避け、遠回しに見せる表現方法のことです。すべてをわかりやすく表現すれば理解は早いですが、想像する余地がなくなり軽い印象になってしまいます。あえてすべては見せず遠回しな表現をすることで、視聴者の思考を刺激し、想像力を膨らますことができるのです。
●象徴表現
象徴表現とは、感情やイメージなどの目に見えない抽象的な概念を、物理的な事象に置き換える表現方法です。
以下は社長が会社の屋上から朝日を見つめているイメージ映像のコンテです。ここでは、太陽や光は希望の象徴であり、昇りゆく様は未来を象徴しています。
別れのシーンでは、よく雨を降らす演出がされます。雨は涙を連想させる悲しみの象徴となるからです。雨を降らすことで演者を泣かさなくても悲しみを表現することができます。
●比喩表現
比喩表現は、具体的な事象を別の具体的な事象にたとえる表現方法です。メタファーともいいます。
曲の歌詞などでは「君は荒野に咲く一輪の花のよう」といった、たとえを使ったフレーズがよく使われますね。映像では、直接的な表現を避けるMVやアート性の高い映画で多用されます。
比喩を使うことによって物事の本質をイメージとして想像させたり、性表現や暴力表現など直接的に見せることが難しいシチュエーションを表現することができます。
比喩表現を使えば常識に縛られない自由な表現が可能になりますが、なんでも自由にたとえてよいわけではありません。比喩表現は本質的メッセージの共通性が必要です。つまり具体的事象を一度抽象化し、その抽象化された概念に当てはまる別の具体的事象へと変換する抽象化思考が求められるのです。
比喩表現と象徴表現は似ていますが、明確な違いとして象徴表現は感情や雰囲気などの抽象的概念を具体化します。それに対して比喩表現は具体的事象を別の具体的事象に変換する表現です。
また象徴表現はある程度客観的に認識できる表現であることが求められるのに対して、比喩表現は制作者の主観が中心です。そのため他人に理解されなくても問題はありません。
婉曲表現:具体的事象→婉曲的な具体的表現
象徴表現:抽象的概念→象徴的な具体的表現(客観的認識が必要)
比喩表現:具体的事象→抽象的概念→別の具体的表現(主観的な認識、他者の理解は必要ない)
このように間接的な表現は一見わかりづらいですが、視聴者の想像力と思考力を揺さぶるため記憶に強く残ります。また表現方法の幅を広げることもできるのです。