午後から行われた各中隊別に趣向を凝らした仮装行列がやんやの喝采を浴びていたが、営庭のあちらこちらに茣蓙を敷いて座る、家族や友人に囲まれている兵隊の笑顔がこの日の楽しさを象徴していた。まだ乳飲み子の我が子を抱いてしきりにあやすが、見慣れない父親に大泣きしている赤ん坊に困り顔の兵隊夫婦。しんみり二人だけで話している婚約者どうしか子どものまだいない夫婦かの二人連れ。
賑やかな営庭の中で、花富久の連中は目立っていた。
何しろ、お座敷着こそ着ていないが、みんな目一杯のお洒落をしてきている。誰が見ても「粋筋」とわかる、母を除いて若い女たち。さすがに賢治もその場に加わることがチョット照れくさかった。持参のいなり寿司や煮物を食べながら話は弾む。
「ケンちゃん、チョット見ない間にずいぶん大人になったわねえ」
梅花ちゃんがからかう。
「ばーか、桜町へ行ってからまだひと月じゃあねーか」
「こないだ聞いた話だけど、久松の金魚ちゃんが、偉いさんのお付きで宴会に来た、ここの中尉さんに惚れちゃって、面会日にここに来るっていう約束をしたんだって」
「その中尉さん独身?」
「うん、それで神奈川のどっか出身」
「それで本当に来ちゃったのよ。そしたら、あの営門は面会日でも検査が厳しくて、住所、氏名を書かされたあと『ご関係は?』と聞かれたのよね」
「姉です、っていう年ではないから妹です?」
「違うの、『まだです』だって。バカよね」
年の若い芸者たちのバカッ話をたしなめて、一番年上の花奴姐さんが、
「ケンちゃんは中学生よ、下品な話はおよし」
大笑いしていた女たちは、肩をすくめて照れ隠しにあっかんべーをした。母はただニコニコしていたが、賢治はちょっと赤面した。