いったん鏡を閉じ、ゆっくり開き直して顔をチェックする。様々な角度から念入りに見て、頬をつねり、首を傾げ、やがて真ん丸に目を開いてから頭を抱え、
「はあああああああああああああああ!?女だったの、僕って!?」
席を立ち、絶叫。無理もない。鏡に映るのは二宮玲人のではなく、─見知らぬ少女の顔だったからだ。座っていた椅子はガラッと鳴り、玲人の派手な悲鳴が教師の声を見事にかき消す。
「なんだ?なんだっ?何がどうなってるんだっ!?」
自分=二宮玲人という事実から間違い? 性別も女で、果てしなく長い夢をこの授業中、ずっと見ていた? 混乱という混乱が頭を駆け巡る。
しかし今は授業の最中。手で咄嗟に口を覆い、無言で着席する。直後、とんでもない恥をかいたと顔から火が噴きそうになった。……が、
「あ、あれ……?」
騒がしいアクションだったのにもかかわらず、周りの生徒たちは一切の関心を玲人に向けてこない。注意の責務がある教師すらも、彼を全く咎めず授業を続行している。
(無視されてる? そもそも僕を認識していない? )
次第に頭が冷えてくるにつれ、他にも妙な点があることに玲人は気づいた。
(みんな半袖を着てるのに、僕だけ長袖のセーラー服だ)
腕を伸ばし、身にまとう衣服を先から先まで見れば、それは黒のセーラー服。腕を動かすと、ほんのり甘い香りが鼻をくすぐる。性別の反転も含めたいくつかの引っかかりを前に、玲人はやっと結論を出せた。リアルすぎる光景が眼下に広がるけれども、こちらが夢だと。
(にしてもこの顔、見たことあったっけ?全然覚えがないけど……。夢で見るってことは、無意識のうちに見たことあるはずだろうし……)
改めてコンパクトミラーで顔を確認した。長めのまつ毛に切れ長な目尻、筋の通った鼻立ち、上品な口元と、とても綺麗な顔立ちをしている。夢でしか見られないほどに際立った見かけにも思えるし、目が覚めるほどに美しいとさえも錯覚してしまう。垣間見る限り、身体のスタイルも抜群のようだ。
(こんな人、一度見たら忘れないのに。不思議だ……ん?)
そのとき、チャイムが授業の終了を告げた。教師はチョークを置き、生徒が解散する中、玲人は着席したまま周囲の変化を流す。服装も相まって、この世界での孤立を自覚させられた。
(何もかもがリアルすぎる。本当にただの夢なのか?怖いくらいだ)