幸せな瞬間
あれはいつのことだったか? まだ雄太が三歳、将太が二歳くらいの時のこと。外から帰ったママを玄関まで二人が愛用のタオルを引きずりながら楽しそうに迎えてくれた。
「楽しそうだね」って声をかけたら「僕ね、可愛い弟が欲しいなあって思ってたら将太が生まれてきたんだよ」と雄太。
「僕ね、優しいお兄ちゃんに会いたくて生まれてきたんだよ」と将太。
今もその時の光景は鮮明に憶えている。二人の天使みたいな笑顔とキラキラと輝くような空気感。一瞬の出来事だったけど一生忘れられない大切な思い出、宝物です。もちろんパパに話したよ。
「良かったね~」とにこにこ笑ってた、涙が出そう。ママの記憶の中に兄弟喧嘩をしている姿が一度もない。雄太はいつも将太を心配して守っているようでした。ママが将太を叱ると
「将太は小さいんだから怒らないで」って泣いて止めてたね。やんちゃな将太は怒りたくなることが時々あったけど雄太がすぐに止めに入るから大変でした。
でも何だかあったかくなる思い出なんだよね。雄太はとにかく優しい。パパは「俺に似たんだ」って言ってましたけどね。雄太の笑顔と言葉で何度も幸せな涙を流させてもらいました。
雄太へのプロポーズ
まだ子供達が小さい時、私の友達はそれぞれ自分の名前をリンゴちゃん、メロンちゃん、イチゴちゃんなどと可愛いものに変えて雄太と将太に教えていた。未だにメロンちゃんだけどなんて言ったほうが通りが良いようで笑ってしまうんだけど……
中でもイチゴちゃんは雄太がお気に入りで「雄ちゃん、イチゴちゃんと結婚してくれる?」なんて言って、雄太も「いいよ」なんて答えていた。幼稚園頃の話ですけれどね。
時々顔を合わせていたので忘れないようにと思ったのか、イチゴちゃんは「結婚してくれるんだよね」と念を押していた。もちろん冗談だし私も笑って聞いていた。
それが小学校の四年生くらいになった時、イチゴちゃんて何歳? って聞いてきて、何も考えずにママと同じくらいと言ってしまった。私の年齢は分かっていてクラスで親の歳を話すらしく「今年も一番年取ってるのがママでした」と報告を受けていた。
だからイチゴちゃんの年齢もよく理解ができたようで「イチゴちゃんて、僕にひどい事言ったよね」と感想を述べた。あらあら、って感じだったのと真面目に聞いていたんだと思っておかしくなってしまった。
後日、イチゴちゃんに話すと「もう、だませないか」と残念がっていた。イチゴちゃんに小学校の入学祝に買ってもらった鉛筆削りは今も健在です。